電気料金の値上がりを補助金で抑えれば、本来減少するべき電力消費量が減ることなく、日本全体で見た化石燃料購入のために支払う金額は化石燃料の価格上昇分だけ増加する。供給力の低下を反映して価格が上昇していれば需要が減少し、化石燃料の輸入額を抑えることができるにもかかわらず、である。
補助金で値引かれているので家計・企業の財布からお金が出なくても、国家財政という財布から多くのお金が出ている。今回の電気料金の価格補助のために来年1~9月という1年に満たない期間で、ガス料金補助と合わせて3.1兆円もの補助金が支出される。燃油補助金も合わせれば6兆円を超える巨額の財政支出である。
言うまでもなく、国家財政という財布に入るお金はわれわれの税金からだ。課題山積のわが国は研究開発支援や教育費の増額など税金を使うべき使途はいくらでもある。そうした重要な政策目的を犠牲にして電気料金を安くするのは正しい選択と言えるだろうか。
価格上昇は電力消費を削減し、停電の可能性も減らす
価格の資源配分の最適化機能にはもうひとつ有用な効果がある。発電コストの上昇によってわれわれは社会全体で電力消費を削減する必要があるが、誰が消費を減らすのかを決める上で、ある程度正当性のある基準を示すことができるという点である。しかもその基準に従って自動的に電力消費量が削減される。
その基準とは個々の家庭や企業にとっての電力の必要度であり、それは通常、政府はもちろん電気事業者にも分からない。しかし価格が上昇していくと電力を強く必要としていない需要者から順番に消費を減らしていくし、電力を強く必要としている人たちは価格が値上がりしても電力を使い続ける。
実際には電力を一切使わないという選択を取る人はほぼいないので、多くの家庭や企業でまずは削減しやすい部分から節電を進めていく行動を始めることになるだろう。政府が節電を呼び掛けるよりもずっと効果が出るはずだ。
ただし、電力の必要度は消費者の経済状況によって影響を受けることには注意が必要である。電気料金値上げがもたらす打撃が相対的に大きい低所得の家庭は暖房を止めて寒さに耐えながら節電する場合もあるだろうし、他方で高所得の家庭では、電気代など全く気にせず、暖房をつけっぱなしにするかもしれない。
確かに不公平ではあるが、それは社会に厳然と存在する所得格差の問題であり、別途対策を考えるべき事柄である。電気料金の負担軽減を考えるならば、低所得家庭に限定して直接給付金を支給する方が望ましい。そもそも電気料金の値上げを帳消しにする価格補助の場合、高所得者も値引きを享受することができるため格差問題の解決にはならない。