それではこの再エネレントは一体どのくらいの金額に上るのだろうか? 再エネ導入のためのコストで電力利用者が負担する金額(買取費用から化石燃料などの発電費用=回避可能費用を引いた金額)は21年時点で巨額の2兆7400億円にまで膨らんでいる 。
ちなみにこれは累積金額ではなく、21年の一年間だけで支払わされた金額である。大量の太陽光発電がわが国で導入されたことをご存じの方は多いと思うが、そのためにわれわれが負担している金額が年間3兆円近くなっているということはあまり知られていないのではないかと思う。
わが国でFIT制度の下で導入されてきた再エネの中心は太陽光であった。当初キロワット時(kWh)当たり43円という超絶高額で全量買い取りが始まった太陽光であるが、23年には事業用の50kWh以上の太陽光では9.5円を下回る水準まで買取価格が低下し、火力発電と比較して遜色のない水準となった。その意味では、太陽光についてはこれまでの10年余りのレントで成長し、レントを解消できる条件が整いつつあると言えよう。
しかし問題は、ようやく新設の太陽光については超過利潤を与えなくても良い水準にまで買取価格が低下したにもかかわらず、次は洋上風力が再エネレントに頼って導入を進められようとしていることである。こうなると、再エネレントはいつまで経っても減ることなく、拡大を続けていってしまうのではないかと危惧される。
再エネはクリーンエネルギーだから、カーボンニュートラルに必要だからと、免罪符を与えられるべきではない。割高な買取費用で再エネを優遇することは、わが国の産業や生活者の利用するエネルギー価格を上昇させ、産業の国際競争力やわれわれの消費余力を削っていくことに他ならないことを認識すべきである。したがってレントを受け取る再エネ産業は国民経済の負担を軽くするべく、自らの高コスト体質から脱却できるよう努力する義務がある。
コスト低減の原動力として最も効果的なのはやはり競争である。他方で、レントは競争から隔離されることで生じるため、競争による効率化の効果を活用しにくい。今回の洋上風力の場合は、例えば太陽光と比べると大幅に高い買取価格水準になるため、全量買い取りのFITではなく、割高な洋上風力同士の限られた競争に止まるが、入札によって供給者を決める制度となっていたわけである。
国民経済の犠牲の下、再エネレントを食むことが出来ているという特権に胡坐をかき、更にレントを政治的影響力で拡大しようとした今回の案件が非常に悪質であることをご理解頂けただろうか。日本風力開発の働きかけで秋本議員が異例の制度変更を成し遂げた内容は、前段で述べた通り、洋上風力の再エネレントの縮小、解消につながる三菱商事コンソーシアムの成果を台無しにし、競争を排除することでレントを更に大きくしようとする試みと言えよう。
汚職レントの大きさ
今回の汚職レントはどのくらいの大きさなのか、粗い精度ではあるが、試算してみることとしよう。
第1ラウンドの三菱商事コンソーシアムと他の入札企業の入札価格との差は3.7~13.7円/kWhの範囲となっている。汚職レントは三菱商事コンソーシアムのように価格を下げようとする努力を実質的に無効化し、買取価格を高く設定するものであるから、三菱商事コンソーシアムと他の入札企業の価格差を汚職レントだと考えることができる。
第1ラウンド3海域の設備容量は合計で168万kW。気候条件が近い、既に商業運転を開始した秋田港・能代港プロジェクトでは13.9万kWの設備容量で4億kWhの出力が想定されているようなので、同様の稼働率だとすると第1ラウンドの総発電量は48億3500万kWhと考えられる。これに上記の入札価格の差を乗ずれば、年間179億~662億円が汚職レントの大きさと考えることができる。
ちなみに今回贈賄側の日本風力開発は第1ラウンドでは秋田能代・由利本荘の2海域に絞った入札であったが、三菱商事コンソーシアムとの価格差はそれぞれ11.0円と9.0円もあり、上記同様に計算すると、もし日本風力開発が落札していたら、三菱商事コンソーシアムよりもそれぞれ152億円、212億円も高い年間販売収入を請求することになっていたのだ。この巨額の金額を明らかにした上で、日本風力開発は「適正な高値だ」と主張できるのだろうか? また、これだけ巨額のレントを得ることができることを踏まえれば、日本風力開発が認めた秋本議員への6000万円の賄賂など、極めて少額で費用対効果が良かったということになるだろう。
日本政府は2030年の洋上風力の国家導入目標を570万kWとしている(民間案件を含めて1000万kW)。もし仮に今回の贈収賄が露見しなかった場合、あるいは秋本議員以外にも同様のレントシーキングに加担する政治家がいてそれに追及が及ばない場合、この汚職レントの額はさらに膨らんでいく。