英国は30年の洋上風力導入量の目標を5000万kWとしている。現在の1400万kWを大きく伸ばす必要があり、今年9月に500万kWの入札が実施された。入札者はゼロだった。
苦境に陥っているのは事業者と導入目標を持つ政府だけではない。設備を製造する事業者も赤字に悩んでいる。デンマークのべスタスは昨年約17億ドル、独シーメンス・エナジーは風力発電部門で約10億ドルの損失を計上した。原材料費と金利の上昇に加え中国製との競争も赤字の原因だ。
欧州委員会は、赤字に喘ぐ設備メーカー支援のため、10月24日に支援策を発表した。欧州投資銀行などからの金融支援に加え、入札において価格以外のサイバーセキュリティ条件などを設けることを要請している。中国製品への対抗策だ。義務ではないので実施は加盟国政府に任される。
事業者から設備メーカーまで支援が必要な状況に追い込まれている洋上風力事業の将来はどうなるのだろうか。
日本の洋上風力事業に将来はあるのか
物価上昇、インフレは発電設備の競争力に大きな影響を与える。中でも再エネ設備は大きな影響を受ける。設備により必要とする原材料も量も異なるからだ。
発電量当たりに必要とされる鉱物資源と鋼材、コンクリートなどの量を図-4と図-5に示した。
火力、原子力と比較すれば大量の資材を必要とする再エネ設備の中でも洋上風力はレアアースなどの重要鉱物を必要とする。
物価上昇の中では大きな影響を受ける発電設備になるので、欧米で事業者の撤退が続くのも当然だろう。
重要資材の多くを中国に依存する状況を脱するため、欧米と共に日本も重要資材の調達の多角化を図っているが、価格は上昇すると考えるのが自然だ。
今後も資機材の上昇が続くとすれば、初期投資が発電コストの大半を決める洋上風力は価格競争力の面で不利になる。
日本の海域の地形、風況は欧米よりも劣る。円安も影響し設備費も上昇し、洋上風力のコストはますます上がる。消費者の負担も増え電気料金も押し上げるだろう。
欧米諸国との比較で、電気料金の国際競争力も失われて行く。それでも日本は洋上風力を進めるのだろうか。港湾、船舶などへのサプライチェーン関連投資が行われた後では引くに引けなくなる可能性もある。環境は大きく変わった。もう一度エネルギー戦略を見直すべき時期だ。