発電所などの電力システムが、インターネットを経由したサイバー攻撃によって機能不全に陥る。ハリウッド映画さながらのシナリオだが、もはや絵空事と笑っていられなくなった。
海外ではすでに、空港や水道などのインフラ、病院が標的にされた。「スタックスネット」というコンピュータウイルスにより、イランの原子力施設が稼働停止に追い込まれる事件も起きている。
日本も、対岸の火事と安穏としてはいられない。今後、スマートグリッドが拡大し、スマートメーターや情報家電などがネットワークでつながるようになれば、サイバーテロの危険性は大きくなるし、また、その被害も増すはずだ。
経済産業省は、サイバー攻撃に備えるために昨年3月、制御システムセキュリティセンターを設立した。万一の事態に備え、システムの操作とサイバー攻撃対策を演習体験できる施設という。
情報セキュリティ、コンピュータセキュリティ対策が重要だとわかってはいても、では実際にどのような事態が起きると想定されるのか、攻撃されたときにどうしたらよいか、といった具体的なイメージは持ちにくい。実物とほぼ同じシステムで演習できれば、よい機会になるはずだ。
演習とともに、社会で起こりうる事態を頭に描くという作業が、電力の運用・管理者のみならず、さまざまな社会インフラ事業者や行政の担当者には必要だろう。
ヨーロッパ大停電が引き起こす
社会インフラ機能不全
そう思っていたところ、核セキュリティに関する仕事をしている核物質管理センターの発行するニュースで、「核セキュリティの備え」という甲斐晶氏のエッセイを読んだ。
甲斐氏は昨年、核セキュリティに関して、IAEA主催の核セキュリティ国際会議(ウィーン)などに参加する合間に、知人から2冊の小説を薦められたという。
一つは、マルク・エルスベルグ著『ブラックアウト』(角川文庫上下巻)。もう一つは、池波正太郎著『雲霧仁左衛門』(新潮文庫)。
「これらを読み終わって改めて核セキュリティの備えの重要さを痛切に感じた次第です」と、甲斐氏。前者は、「情報セキュリティ、コンピュータセキュリティ対策が重要であることを訴えて」おり、後者は、「インサイダー(内部脅威)対策が如何に大切かを改めて認識させられる作品」という。