2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2014年1月31日

 まずは、『ブラックアウト』を手に取った。著者は、1967年ウイーン生まれの元日刊紙コラムニスト。現在は、ウイーンの広告会社で戦略コンサルタントなどをしている。

 本書をひとことでいえば、「十数日間におよぶヨーロッパ大停電を描いたパニック小説」(解説・千街晶之氏)である。

 イタリア、スウェーデンに端を発した停電が、やがて他のヨーロッパ諸国に伝播する。信号が突如消え、交通網は麻痺。食料の奪い合いや略奪が横行し、暴動が多発する。刑務所では、危機に乗じて囚人が脱走する。水が流れなくなったトイレに汚物がたまり、都市は不衛生きわまりない無法地帯と化す。

 病院や発電所の非常用電源も数日後には底をつき、徐々に社会インフラが機能不全に陥っていく。フランスをはじめ各地で、冷却機能を失った原子力発電所が爆発し、放射性物質が漏れ出す。

 まさか、たかが停電でそんな事態になるなんて。眉に唾をつけたくなる。しかし、それは現代の電力システムを知らないが故の楽観でしかない。発送電が分離され、スマートメーターが導入されて網の目のように電力網がつながれた現代ヨーロッパでは、十分起きうる危機なのである。

現実に起こり得るパニックを
可能な限りリアルに描く

 イタリア人の元ハッカーで、ITスペシャリストのピエーロ・マンツァーノという主人公が、いち早くスマートグリッドに潜む脆弱性に気づき、サイバーテロの可能性を指摘するものの、逆に犯人扱いされて大逃走劇を演じるはめに。

 マンツァーノとCNN特派員のアメリカ女性を軸に、舞台はイタリア、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、オーストリア、スペイン、さらには北米へ。

 逃走劇はハリウッド的で、いささかやり過ぎの感も否めないが、それを差し引いても圧倒的なリアリティを感じさせるのが、各国の電力会社や発電所、企業、政府機関といった実在の組織や出来事の記述である。

 末尾に、「本書は、実在する企業に言及し、まったくこのとおり、あるいは似たような経過をたどったであろう現実的な経過がテーマになっているにもかかわらず、フィクションである」と記されている。


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