2024年4月25日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2014年1月31日

 つまり、「あくまでも現実に起こり得るパニックを可能な限りリアルに描き、それに警鐘を鳴らす」(解説)ために本書は書かれ、その目的は見事に達成されたといえる。

私たち日本人にも向けられた問い

 さらに、本書を読むだけで、電気が家庭に届くしくみから、ヨーロッパの電力・エネルギー事情、環境保護や代替エネルギーに対する見方、人種観にいたるまでを垣間見ることができる。

 セキュリティについて語る前に、まず現状をよく学び、本書を他山の石として、震災後日本で急速に推し進められつつある電力システム改革やスマートグリッド化を一考してみることも必要であろう。

 ヨーロッパ中を飲み込んだ災厄が去り、通信網が回復した後、ベルリンで連邦内務省事務次官は、同僚らにこう問いかけた。

 <「……多くの質問が出るでしょう。われわれのシステムはなぜこんなに簡単に攻撃されたのか? エネルギー会社にはどのような責任があるのか、どのような結果を考慮に入れておくべきだったのか? 危機管理システムがこんなにお粗末だったのはなぜか? 官庁の無線通信機の電源がわずかな時間で尽きたのはなぜか? テロリストはなぜ、こんなに長いこと人目につかずに攻撃を準備できたのか? 電話網はなぜ、あっという間に崩壊してしまったのか? 原子力発電所はすべてがストレステストに合格していたのに、なぜこんな大事故を起こしたのか? スマートメーターと将来導入されることになっているスマートグリッドは、実のところどれくらい賢いのか? そしてなによりどの程度安全なのか? (中略)そのような基盤の上に、エネルギー網を再構築して責任を持てるのか?」>

 これらは私たちにも向けられた問いである。

 「ヨーロッパという、複雑に交錯する無数の糸で織り上げられた一枚の巨大なゴブラン織が、電力インフラという一本の糸が抜き取られただけでずたずたになってゆく、壮大な滅びの情景」から、島国日本の読者は、何を学びとることができるだろうか。


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