再エネで水素を製造するコストは高い
洋上風力のコストは高い。その電気を固定価格買取(FIT)あるいは市場価格にプレミアムが支払われるFIP制度を利用せず、水素製造に使えば、消費者負担はないが、水素のコストはとんでもなく高くなる。
米国エネルギー省は、水電解により水素を1キログラム(kg)当たり4ドルで製造するためには、利用率90%の装置では電気のコストは4セント/kWhでよいが、利用率が50%になると、2セント/kWhの電気が必要と試算している。
水素のコストを考える際には、まず電気のコストが大切になる。水素1kg製造に必要な電力量は、今55キロワット時(kWh)だ。仮に洋上風力の発電コストを15円/kWhとすると、電気のコストだけで825円になる。
必要電力量の理論値は40kWhなので、将来もう少しコストが下がる可能性はあるが。日本の洋上風力の発電コストが大きく下がることはないだろう。
欧州では水電解装置の価格は1kW当たり1300ドル程度だ。たとえば、2万kWの設備の利用率を80%と想定すれば、年間2500トンの水素が製造可能だ。残存価値を10%とし減価償却期間を5年とすれば、水素トン当たりの償却額は約2000ドルになる。水素1kg当たり2ドルだ。
洋上風力発電の電気を利用すれば装置の利用率は最大40%程度だ。償却費は4ドルになる。主要国のグリーン水素の目標価格は1kg当たり数百円だ。2ドル、300円のコスト増は大きい。
中国製のアルカリ水電解装置の価格は欧州製の約4分の1なので、将来電解装置の価格が下落する可能性はあるが、このコストの差を埋めるのは簡単ではないし、電気と装置のコストだけで水素の価格は1400円を超える。設備維持などの費用も必要なので、価格競争力があるとは言えない。
水素の世界をどう作り上げるのか
安く水素を製造する方法として、出力制御された再エネ電源からの電気を使う方法もある。捨てられる電気のコストは掛からないので、水素のコストも安くなるはずだ。
しかし、余剰電力が生じる時間は少ないので、水電解装置の利用率は数パーセント程度に低迷する。装置のコストが水素のコストを押し上げ、安い水素にはならない。
CO2を排出せずに安定的に水素を製造する方法の一つは、原子力の電気による水の電気分解だ。米国、欧州で開発が進む小型モジュール炉(SMR)を利用すれば、発電量の調整も容易にできる。
SMRの導入と設備製造に係る事業を興せば、雇用も生まれる。地域がこれから拡大する水素市場を通し生き残る方法は、洋上風力ではないだろう。