日本国憲法前文に「日本国民は、(中略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とある。これは憲法第9条の戦争放棄の基本的立場を内外に向かって高らかに宣言する内容だ。
しかし、77年前の敗戦直後ならいざ知らず、ウクライナ侵略を自衛の戦争と称して憚らず、北方四島(歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島)の不法占拠を続けるロシア、尖閣諸島沖の領海への侵入を繰り返す中国、核開発とミサイル発射を繰り返す北朝鮮、国際法に反した李承晩ラインの一方的設定により竹島を不法占拠する韓国など、日本はすべての隣国と領土問題を抱えている。またそうした国の多くは権威主義的であると同時に対外拡張主義的であるため、日本国憲法前文にあるような「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」私たちの安全と生存を保持できるような環境には到底ないことは自明である。
他国の主権や人権、自由さらには法の支配を歯牙にもかけない権威主義的な国々から国民の生命と領土を守るには、防衛力を強化し、十分な備えをしておくにこしたことはない。
こうした状況を受け、岸田文雄首相は、先月、米国のバイデン大統領との共同記者会見で、「地域の安全保障環境が一層厳しさをます中、バイデン大統領とは日米同盟の抑止力・対処力を早急に強化する必要があることを再確認した」と述べた上で「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明した」ことを明らかにした。
高まるGDP比1%枠から脱却への主張
これに対して、安倍晋三元首相は、自派閥の会合で、防衛費に関して、2023年度予算で「6兆円後半から7兆円が見えるぐらいが相当な額ではないか」と主張した。同時に、防衛費の国内総生産(GDP)比2%以上への増額を、政府が今月上旬にも閣議決定するいわゆる「骨太の方針」に明記するよう求めている。
これまで防衛費は、1954年に自衛隊が発足して以来、「防衛費が無制限に膨らむ」との懸念を国内外で持たれないように、田中角栄内閣で防衛費膨張の歯止めとなる基準づくりの議論を開始。76年に三木武夫内閣のもと国民総生産比1%を「超えない」と閣議決定がなされた。
その後、86年に中曾根康弘内閣が撤廃を决め、87~89年度予算では1%を超えたものの、特段の基準となる制約がない中でも、これまでほぼGDP比1%枠が守られてきた。実際、2022年度当初予算でも、防衛費は5兆4797億円と2021年度の名目GDP、541兆6190億円の1%となっている。
このように、GDP比1%枠が実質的に機能してきた結果、周辺諸国が防衛費を伸ばす中、日本の防衛費は名目GDPの低迷と相まって横ばいを続け、名目GDP比では主要7カ国(G7)や韓国、豪州を下回り、最も低い水準となっている。