今回のテーマは「バイデンの訪日と訪韓 5つの疑問」である。ジョー・バイデン米大統領は大統領として初のアジア歴訪で中国を外し、日本と韓国を訪問した。バイデン大統領は岸田文雄首相との共同記者会見で台湾有事に関して軍事的な関与に言及した。その真意は一体どこにあるのか。本当に失言なのだろうか。
なぜバイデン大統領は共同記者会見とクアッド首脳会合の双方で、ロシアがウクライナの文化を消滅させようとしていると強調したのか。
さらに、「バイデン・岸田」の関係は「トランプ・安倍」とどう異なるのか。日米豪印の連携の枠組み「クワッド」の性質は今後変化するのか。なぜバイデン大統領は韓国に到着するとサムソン電子の半導体工場を視察したのか――。
Q1 バイデンの「台湾有事なら軍事介入」の発言は失言か?
A1 バイデン大統領は日米共同記者会見で中台関係について語る前に、ロシアとウクライナの戦争に触れ、プーチン露大統領が残虐行為に対して大きな代償を支払っていると述べた。ロシアに制裁を続け、責任をとらせることが、中国に対するメッセージになるというのだ。
とはいうものの、仮に中国が台湾に侵攻したら米国はどう対処するのか。バイデン大統領は米国記者団からの質問に対してウクライナを引用しながら、「台湾を軍事的に防衛する」と答えた。
バイデン氏が台湾に対する軍事的関与に言及したのは今回が3回目であり、失言とは言えないだろう。
しかも、バイデン氏の発言を世論が支持している。シカゴ・グローバル評議会の世論調査(2021年7月7~26日実施)によれば、「もし中国が台湾に侵攻した場合、米軍を使用することに賛成か反対か」という質問に対して52%が「賛成」と回答した。1982年には賛成が僅か19%であったが、その後、賛成派が徐々に増え、2021年に初めて5割を超えた。
共同記者会見でバイデン氏は台湾有事の際、どのような武器を供与するのか、日本の自衛隊にどのような役割を期待するのかなど、具体的な防衛策に関しては明かさなかった。
ただロシアとウクライナの関係と同様、バイデン大統領は中台関係も「民主主義対専制主義」の対立構図で捉えていることが明白になった。バイデン氏は専制主義国家のロシアと中国からウクライナと台湾の民主主義を守る固い決意を表明したのだ。
Q2 なぜバイデンは共同記者会見とクアッド首脳会合で、ロシアがウクライナの文化を消滅させていると強調したのか?
A2 岸田首相との共同記者会見でバイデン大統領は、ロシアがウクライナの学校、病院、デイケアセンター、博物館を攻撃してウクライナ人のアイデンティティを取り除こうとしていると強く非難した。クワッド首脳会合においても、ロシアがウクライナの学校や教会、自然博物館を破壊し、文化を消滅させようとしていると批判した。
上のメッセージには少なくとも2つの意味が込められている。
第1に、ロシアの行為はウクライナ人およびウクライナ文化の消滅を図るものである。プーチン大統領が訴えるウクライナの「非ナチ化」とは、人種と文化の消滅と同等である。
第2に、「取り換え理論(Replacement Theory)」に対する批判である。米国内ではトランプ支持者が、白人文化が非白人文化に取り換えられてしまうと信じ、恐怖心や不安を強く抱いている。その結果、バイデン大統領の訪日直前に白人至上主義者による黒人を標的にした銃乱射事件が発生した。
プーチン大統領の「非ナチ化」は、ウクライナ人とウクライナ文化の取り換えにより「ロシア化」を実現するものであると捉えることができる。バイデン氏の頭の中では、取り換え理論とプーチン氏の残虐行為が結びついているのではないだろうか。