今回のテーマは「ロシアとウクライナの戦争――5つの疑問」である。ロシアとウクライナの戦争は「代理戦争」なのか。バイデン政権はジャベリン(携行型対戦車ミサイル)およびスティンガー(携行型地対空ミサイル)の在庫不足をどのように補うのか。なぜジョー・バイデン米大統領は南部アラバマ州のジャベリン生産工場を視察する必要があったのか。
さらに、バイデン政権は米軍需産業を潤わせるために戦争の長期化を狙っているのか。ロシアによるウクライナ侵略は今秋の中間選挙にどのような影響を及ぼすのか――。
Q1 ロシアとウクライナの戦争は「代理戦争」か?
A1 ホワイトハウスの記者団は、第二次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した5月9日の「戦勝記念日」を前に、ロシア政府と国営テレビの報道に変化がみられると指摘した。「特殊軍事作戦」ではなく、「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の戦争」および「ロシアと米国の戦争」として描いているというのだ。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は同国とウクライナの戦いは「代理戦争」であると述べた。これに対して、バイデン大統領は代理戦争ではないと断言した。その上で、「ロシアは特殊軍事作戦が失敗したからだ。言い訳に過ぎない」と記者団に語った。
ロシアは代理戦争に仕立てようとしているというのである。米国防総省のジョン・カービー報道官も定例記者会見で、代理戦争に触れてロシアがウクライナとの戦いを「米国対ロシア」並びに「西側諸国対ロシア」に描いて、奇妙なメッセージを発信しているとコメントした。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は代理戦争を否定した上で、「ロシアは論点をすり替えようとしている。ロシアとウクライナの戦争だ」と記者団に述べた。
さらに、サキ氏は「私たちはクレムリンの論点を繰り返し言うべきではない」と語り、ロシアのプロパガンダを受け入れてはいけないと記者団に警告を発した。要するに、ロシアはウクライナとの戦いを「特殊軍事作戦」から「ロシア対NATO」ないし「ロシア対米国」に再定義したのである。別の表現を用いれば、ロシアのいう代理戦争とは「もう一つの真実(alternative fact)」である。
Q2 バイデン大統領はジャベリンとスティンガーの在庫不足をどのようにして補うのか?
A2 リチャード・ブルーメンタール上院議員(民主党・東部コネチカット州)は、米国は在庫の約3分の1のジャベリン並びに約4分の1のスティンガーをウクライナに供与したと発言した。同議員によれば、ジャベリンを補充するには32カ月も要するという。ジャベリンの在庫不足に関する記者団からの質問に対して、米国防総省のカービー報道官は兵器の在庫について語ることはできないと強調した。言うまでもなく機密情報だからだ。
ホワイトハウスの記者団はロッキード・マーチン社とレイセオン社が埋め合わせをするまで、ウクライナへのジャベリンとスティンガーの供与を一時停止するのか質問をした。これに関してサキ報道官は明言を避けた。世界的な半導体不足を解消しない限り、ジャベリンやスティンガーの補充は困難である。ウクライナのみならず、米国の軍事計画にも影響を及ぼすのではないかという懸念の声すらあがった。
サキ氏によれば、ジャベリン1基に約200個の半導体が使用されている。米国半導体工業会(Semiconductor Industry Association: SIA)によると、世界における米国の半導体市場シェアは、13年は56.7%であったが、21年は43.2%まで低下した。そこで、バイデン政権は技術面および軍事面における競争力低下とアドバンテージ解消を防ぐために、半導体企業に補助金を提供する「超党派のイノベーション法案(Bipartisan Innovation Act)」成立にエネルギーを注いでいる。すでに上院と下院では異なったバージョンのイノベーションと競争力に関する法案が成立しており、2つの法案のすり合わせを行う。米国の半導体復活に反対する中国は、ロビイストを使って法案成立を阻止しようとしている。バイデン政権は米国における半導体産業の復活に本腰を入れているのだ。ただし、「超党派のイノベーション法案」が成立してもジャベリンとスティンガーの在庫補充が即座にできるのかは疑問だ。