2024年米大統領選挙への道

2022年4月8日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「ロシアとウクライナの交渉スタイルはどこがどう違うのか?」である。ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで起きたロシア軍による残虐な行為により、ロシアとウクライナによる停戦交渉に不透明感が増してきた。今後、両国は停戦交渉をどのように進めていくのか。 

 また、ロシアとウクライナの交渉スタイルはどのように相違しているのか――。コミュニケーション論と交渉論の視点から述べる。

ゼレンスキー大統領(REUTERS/AFLO)

米国がみるロシアの交渉スタイル

 ウィリアム・テイラー元駐ウクライナ米代理大使はロシアとウクライナの停戦交渉を、コミュニケーションの視点から分析した。テイラー代理大使は2019年11月、米連邦議会下院情報委員会で開催されたトランプ弾劾裁判で証言を行った職業外交官である。

 テイラー氏は、ウクライナ交渉団はゼレンスキー大統領と密接に連絡をとっているのに対して、ロシア交渉団はプーチン露大統領と密なコミュニケーションができていないと言う。

 ロシア交渉団におけるコミュニケーションの問題については以前から指摘されていた。『米国の国際交渉戦略』(米国務省外交研究センター編著、中央経済社)によれば、ロシア交渉団はメンバー間で軍事秘密の詳細な情報を共有していない場合がある。米国際経営大学院(当時)の「交渉と取引」で、アリゾナ州の元州務長官リチャード・マホーニー教授が、ロシア交渉団における特徴としてメンバー間の情報共有の欠如を挙げていたのを筆者は覚えている。

 ロシアとウクライナの停戦交渉で、ロシア側の首席交渉者ウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官と他のメンバーとの間に情報の隔たりが存在する可能性がある。仮にそうであるならば、ゼレンスキー大統領とミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問率いるウクライナ交渉団とのコミュニケーション構造は全チャネルであるのに対して、プーチン大統領とロシア交渉団は部分的チャネルといえる(図表1・2)。

 

 全チャネルのチームは、メンバー全員が関与し、知恵を出し合い、課題解決を行う。情報は全てのメンバーに流れ、仕事の満足度は高い。一方、部分的チャネルのチームは、リーダーが課題解決をし、情報は全てのメンバーに流れない。メンバーの仕事に対する満足度は低い。

 さらに、同書によればロシアの交渉メンバーはクレムリンの指示を忠実に守って交渉を進める傾向が強い。プーチン大統領の指示は「絶対」であり、ロシア交渉団は柔軟性に欠け、融通が利かないのだ。実際、トルコのイスタンブールでの4回目の停戦交渉で動きがあったものの、ロシア側は1回目から3回目まで譲歩する姿勢は見せず、交渉は膠着状態に入っていた。

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