2023年1月30日(月)

2024年米大統領選挙への道

2022年5月25日

»著者プロフィール
著者
閉じる

海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

Q3 日米共同記者会見とクアッド首脳会合で、岸田首相は「ジョー」と呼び掛けた。一般に「トランプ・安倍」はウエットな関係(情のこもった関係)であったと言われるが、「バイデン・岸田」の関係は一体どうなるのか?

 A3 日米の両首脳はファーストネームで呼び合い、形から入るのが慣例となったようだ。ドナルド・トランプ前大統領と安倍晋三元首相は互いを「ドナルド・シンゾウ」と呼び、ゴルフで親交を深めて蜜月関係を演出した。これに対して、バイデン大統領と岸田首相の関係は政策や実務のみのクールな関係になってしまうのだろうか。

 必ずしもそうとは言えないだろう。バイデン大統領は演説で、ティップ・オニール下院議長(民主党)が用いた「すべての政治は地元だ」という言葉を紹介する。その後で、「彼(オニール氏)はそう語ったが、私はすべての政治は個人的関係だ。すべての外交政策は個人的関係だと考えている」と述べる。

 バイデン氏は相手の意見を傾聴し、体をタッチングしながら関係を構築していくタイプである。傾聴は岸田氏と共通項だ。

 ただし、バイデン大統領と岸田首相の生い立ちの相違はあまりにも大きい。4人兄弟のバイデン氏は、両親と祖父を含めた7人家族で寝室が3部屋しかない家で生活をしていたという。

 父親が失業した際、家族は医療保険を失った。バイデン氏はそのときの母親の表情と言葉を心に刻んでおり、それが後に医療保険制度改革(通称オバマケア)を実現する力になった。

 20年米大統領選挙でトランプ氏はバイデン氏を「ペンシルべニア州の裏切り者」とレッテルを貼った。同州スクラントンで生まれたバイデン氏は、「失業した父親がデラウェア州で職を得たので引越したのだ」と支持者に説明し、自分は決して裏切り者ではないという明確なメッセージを発信した。

 上院議員のとき、バイデン氏はデラウェア州から首都ワシントンまでアムトラックに乗って通勤した。その理由について上院議員の当時の給料で、2人の息子をワシントンで育てることはできなかったからだと本音を漏らしたことがある。

 そもそも米上院はジョン・ロックフェラー元議員やジョン・ハインツ元議員のように富裕層が多い。これに対して、バイデン氏は「貧しい上院議員」と見られていた。岸田氏は「貧しい衆議院議員」と呼ばれたことは決してないだろう。

 周知の通り、バイデン大統領は最初の妻と娘を交通事故で亡くした。その上、長男までも脳腫瘍で失った。バイデン大統領の人生は浮き沈みが激しい。

 ホワイトハウスの記者団がバイデン氏に低迷している支持率についてコメントを求めると、「支持率は上がったり下がったりするものだ」と語った。自分の人生と重ね合わせているようだった。

 バイデン大統領は岸田首相の「新しい資本主義」を「私の選挙公約かと思った」と語ったという。バイデン氏は演説で「中間層が米国を作った。組合が中間層を作った」と語気を強める。「中間層ファースト」なのだ。岸田氏は共同記者会見で「バイデン大統領は中間層重視だ」と語り理解を示した。

 バイデン氏は岸田氏の「新しい資本主義」に関して、中間層への「成長と分配の好循環」と解釈し、好意的に受け止めたのだろう。仮にそうであるならば、バイデン・岸田両氏は、中間層を共通項にして生い立ちの違いを乗り越えることができるかもしれない。

Q4「クアッド」の性質は変化するのか?

 A4 今後注目すべきは日米豪印の連携の枠組みである「クアッド」の性質が変化するのかである。クアッドの設立時、アントニー・ブリンケン米国務長官は「クアッドは軍事同盟ではない」と繰り返し強調した。

 だがロシアによるウクライナ侵攻後、バイデン政権のクアッドに対するトーンに変化がみられる。中国を念頭に「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の必要性が高まったとみているフシがある。米国はインドが所有する兵器を「ロシア化」から「米国化」にシフトさせ、クアッドに軍事面を含めた戦略的対話を加える可能性は否めない。

 米戦略国際問題研究所のマイケル・グリーン氏は、バイデン政権はクアッドが軍事同盟ではないフリをしていると指摘する。

 バイデン政権の政府高官は、ホワイトハウスの記者団に対して、「クアッドは発展途上にあり強化していく」と述べた。この政府高官には韓国を含めた「クアッド・プラス」から、他のアジア諸国を巻き込んだ「拡大クアッド」へと発展させていく思惑があるのかもしれない。


新着記事

»もっと見る