今回のテーマは「米中間選挙とJ.D.バンス共和党予備選勝利の意味」である。11月8日の米中間選挙の投開票日まで6カ月を切った。全米では民主・共和両党の予備選挙が各州で行われている。注目はドナルド・トランプ前大統領が推薦した候補者が勝利を収めるのかである。果たして共和党予備選挙でトランプ効果は出ているのか――。
米国民は今秋の中間選挙をどうみているのか?
中間選挙で上院は定数100の約3分の1、下院は全435議席が改選となる。エコノミストと調査会社ユーゴブの共同世論調査(22年4月30日~5月3日実施)によれば、「必ず投票に出向く」と回答した民主党支持者は59%、共和党支持者は68%、無党派層は44%であった。民主党支持者は共和党支持者よりも9ポイント低い。無党派層は共和党支持者よりも20ポイント以上も下回っている。共和党支持者が投票に行く可能性が最も高いという結果が出た。
同調査では20年米大統領選挙でジョー・バイデン氏に投票した有権者の69%、トランプ氏に投じた有権者の76%が「必ず投票に出向く」と答えた。トランプ支持者がバイデン支持者を7ポイント上回った。
年齢別にみると、18~29歳の若者で「必ず投票に出向く」と回答した者は24%に止まっている。一方、65歳以上の高齢者は80%が「必ず投票に出向く」と答えた。高齢者が若者を56ポイントも引き離した。
同調査が前回の中間選挙と比較して熱狂的か尋ねたところ、無党派層は26%、18~29歳の若者は21%が「より熱狂的である」と回答した。民主党にとって勝敗の鍵を握る無党派層と若者の低い熱意や関心度が、マイナス要因である。
民主党に警鐘
このような状況の中で、民主党にとって「(手遅れになる前の)注意喚起を促す出来事(wake-up call)」が起きた。人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決を連邦最高裁が覆す準備を進めている文書が漏洩されたのだ。妊娠中絶を違憲にする最高裁保守派判事の動きは、民主党支持者、特に中間選挙に対する若者と独身女性の熱意および関心度を高める要因になる可能性が高い。
米公共放送(PBS)とのインタビューでヒラリー・クリントン元国務長官は人工妊娠中絶の権利は、民主主義と連結していると主張した。「個人の選択」並びに「個人の自由」であるからだ。中間選挙において民主党には、人工妊娠中絶擁護の議員をより多く選出するように若者と独身女性に強く訴えて動員する戦略が不可欠だ。
加えて、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官によれば、75%の人工妊娠中絶の希望者は貧困層であり、黒人やヒスパニック、アジア系といった非白人が多いという。民主党は支持基盤である非白人の熱意も高める機会を得たといえる。妊娠中絶の権利に訴えて非白人票を取り込む戦略も必要である。