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2022年5月10日

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島澤 諭 (しまさわ・まなぶ)

関東学院大学経済学部教授

富山県生まれ。1994年東京大学経済学部卒業 同年4月経済企画庁入庁。調査局内国調査第一課、総合計画局計量班、調査局国際経済第一課等を経て2001年内閣府退官。02年秋田経済法科大学経済学部専任講師、04年10月秋田大学教育文化学部准教授。15年4月から中部圏社会経済研究所研究部長を経て、22年4月より現職。

 岸田文雄首相は今月5日、ロンドンの金融街シティーで行った講演で、「日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心して日本に投資をしてほしい。Invest in Kishida!(キシダに投資を!)」と訴え、少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充や預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設等により、「貯蓄から投資へ」の移行を大胆に進め「投資による資産所得倍増を実現する」と表明した。

ロンドンの金融街シティーで「投資による資産所得倍増」を表明した岸田文雄首相(ロイター/アフロ)

 これは、2013年9月25日に当時の安倍晋三首相がニューヨーク証券取引所で投資家を前にして「Buy my Abenomics(アベノミクスは買いだ)」とスピーチした姿を彷彿とさせた。

一向に進まない「貯蓄から投資へ」

 実はこの「貯蓄から投資へ」のスローガンは、バブル崩壊以降の日本経済の停滞を受けて橋本龍太郎内閣により進められた6つの改革の一つ「金融システム改革(日本版金融ビッグバン)」の中で、国内企業へのリスクマネーの供給によって経済活性化を果たすため個人の金融資産を貯蓄から投資へと転換していくのが大きな課題とされて以降、歴代内閣で度々掲げられてきた。

 21年12月時点で日本の家計の金融資産は2023兆円となっている。この巨額な金融資産がどのように運用されているかについて見ると、家計の金融資産に占める現金預金の割合は54%であるのに対して、株式・投資信託などは15%となっている。例えば、1997年12月時点でも家計の金融資産に占める現金預金の割合は54%、株式・投資信託などは9%弱となっていたので、政府の思惑とは裏腹に残念ながら「貯蓄から投資へ」はうまく進んでいない。

 なぜ、「貯蓄から投資へ」は不発に終わっているのだろうか。日本証券業協会調査部「令和3年度証券投資に関する全国調査(個人調査)」を見ると、金融商品で重視するのは「いつでも出し入れができる」(46.1%)、「元金が安全」(38.1%)であることで、「利回りが良い」(23.7%)や「値上がりが期待できる」(10.9%)を大きく上回っており、安全重視がうかがえる。

 日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」(2021年8月)によれば、米国では現金・預金は13%、株式・投資信託は51%、欧州連合(EU)ではそれぞれ34%、28%であるので、やはり、日本国民の資産運用の安全重視を反映して、日本は現金・預金の比率が他の先進国と比べて高い国であることが確認できる。

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