2022年8月11日(木)

21世紀の安全保障論

2022年8月6日

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吉富望 (よしとみ・のぞむ)

日本大学危機管理学部 教授

1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部、防衛省情報本部、内閣官房内閣情報調査室、防衛大学校教授などを経て2015年退官。拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了、博士後期課程(安全保障専攻)単位取得退学。主著に『防災をめぐる国際協力のあり方』(共著・ミネルヴァ書房)。

 国民保護法では、地下鉄駅舎、地下街、地下道などの既存の地下施設の中から都道府県知事(政令指定都市を含む)が地下避難施設を指定することになっている。しかし、既存の地下施設が少ない沖縄県などの自治体が住民の生命を守ろうとすれば、地下避難施設の建設という課題に直面する。

 また、既存の地下施設を地下避難施設に指定しても、そこに非常用の発電機、照明、トイレ、水、食糧、毛布、医薬品などの備蓄が無ければ避難施設として機能しない。こうした地下避難施設の建設、器材・物資の備蓄などには多額の費用が必要であり、予算が潤沢ではない自治体には負担が重すぎる。

 こうした地下避難施設の整備は、有事において国民を守るという防衛費の目的に合致する。他方、地下避難施設の整備は地域の実情に応じる必要があるため、自治体の業務とすることが適切だ。

 したがって、地下避難施設に係る費用は国が防衛費として計上し、それを自治体に配分して整備を進めることが妥当である。このためには、国民保護法を改正して国の責任を拡大することも必要となる。

民間空港・港湾の防衛目的での使用

 ウクライナ軍は、ロシア軍による激しい砲爆撃を巧みに避けながら粘り強く戦い続けている。これを可能にしている要因の一つは、ウクライナ軍が民有地や民間施設も利用して分散や頻繁な移動を繰り返すことで、ロシア軍による位置の特定を避けていることだと思われる。つまり、軍による民有地や民間施設の利用が戦況に大きな影響を与えるのだ。

 翻って日本を見てみよう。島国である日本の防衛では、敵の攻撃を本土から離れた場所で阻止することが国民の生命を守る上で重要になる。したがって、自衛隊や米軍の航空戦力や海洋戦力の作戦基盤となる国内の空港や港湾には防衛上の大きな意義がある。他方、空港や港湾は敵の攻撃対象でもあるため、航空戦力や海洋戦力は努めて多くの空港や港湾を基地として利用しつつ、粘り強く作戦を続ける必要がある。

 しかし、空港を例に取ると、国内の民間専用の空港には自衛隊機や米軍機が基地として使用する上で機体を守るのに必要な航空機用掩体(えんたい)、攻撃による被害を受けにくい地下式の燃料庫などの施設、あるいは整備用の資機材・部品、滑走路の修復用資機材、燃料などの備蓄は無い。

 また、国内の民間港湾も有事において攻撃を受けたり、基地として使用されたりすることは想定していない。このため、攻撃を受けた岸壁、荷役施設などの被害を復旧するための資機材は準備されていない。

 民間空港や民間港湾の管理は国土交通省や自治体が行っているが、こうした防衛専用の施設・資機材を設置・備蓄するための多額の費用負担を管理者に求めることには無理がある。こうした予算は国が防衛費として確保し、国土交通省や自治体に配分して準備を進めることが適切である。

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