2024年12月7日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2023年1月11日

 そして、成長が曲がり角に差し掛かり始めた今だからこそ、まだ国力には余力があり、危ない最後の賭けに打って出るリスクが高いというのだ。本書では、そうして暴走した国の例として日本が何度も出てくる。日本人にとって妙に説得力がある。

World War II would prove nearly suicidal for Japan. The cause, however, was not insanity but the desperation of a country whose revisionist dreams were about to be shattered. Japan had been on an aggressive tear for a decade. It became most dangerous when it realized that time was running out.

「第二次世界大戦は日本にとって自殺行為に近いものだった。しかし、この戦争は狂気によって引き起こされたのではない。国の焦りが招いた戦争だ。国際秩序を変えたいという夢の実現が難しくなった時に国がもつ切迫感が原因だった。その直前までの10年、日本は躍進を続けていた。国というものは、残された時間がわずかだと悟った時がもっとも危険なのだ」

いかに中国に賭けへ出させないか

 まさに今の中国が焦りから大きな賭けに打って出るリスクが高い。これが本書の第一の主張だ。この時間軸と大国の心理を前提にして、米国がこのリスクにどう対処すべきか提言も後半に盛り込んでいる。

 当然ながら、中国が最後の賭けに打って出る気にならないよう、日ごろから対中国のグローバルな連携を強めることを求める。中国がひとたび戦争を始めたら、中国にとってとんでもない結果になることを思い知らせ、賭けに出る気運を事前にそぐことが肝要だという。

 米国はアジアでの軍事力も増強すべきだと主張する。琉球諸島に日米共同の軍事拠点の早急な開設なども提案している。戦争が始まってからでは遅いという危機感をもって本書は論を展開している。

 その一方で、中国を追い詰めすぎるのもいけない。窮鼠猫を噛む、という状況に中国を追い込むのも危険だという。ABCD包囲網による経済制裁で追い詰められた日本が太平洋戦争に突入した歴史を知る日本人にとっては、追い詰めすぎてもいけないという教訓は頭に入りやすい。

 では、日本は中国を相手に、国の安全保障政策をどう描くべきなのか。本書は米国の専門家が米国の読者向けに書いた本だけに、残念ながら、その答えは用意していない。当然ながら、それは日本の指導者が自分で考えるべきことだろう。というか、すでに考え抜き、手をうっておくべき重要な課題だろう。本書によれば、危機はすでに近い将来に迫っているのだから。

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