筆者の見るところ、それこそが中国の隠然とした狙いである。一つは、こと新疆ウイグル自治区の問題をめぐって中央アジア諸国に対し中国支持の念を押させること、もう一つは、中央アジアにおける中露角逐の当面の勝利宣言である。
記念植樹が意味すること
そこで中国・中央アジアサミット西安宣言の文言を仔細に見てみると、概ね昨年の上海協力機構サマルカンド宣言に沿った内容ながら、同時に「中央アジア諸国は、中国共産党の貴重な国家統治(治国理政)の経験を高度に評価し、中国式の現代化の道が世界の発展に重要な意義を有することを肯定する」という、サマルカンド宣言にはない内容が注意を引く。
中国としては、中央アジア諸国において新疆のトルコ系イスラム教徒への弾圧を非難する声が隠然と存在していることを意識せざるを得ない。またそもそも、習近平政権があらゆる強権をふるって自国のトルコ系イスラム教徒民族の思想を「中国化」し、「中華民族共同体意識」なるものを鋳造しようとするのは、彼らが中央アジア諸国の社会・文化的影響を受け、中央アジア諸国のイスラム教徒と新疆のイスラム教徒の境遇を比較する中で中国側の「民族区域自治」の空洞化を疑い、ついに彼らの心が中国から離れることを強く警戒しているためである。
そこで中国は、予め中央アジア諸国政府首脳に対し、中共党体制への賛美を表明させることで、そもそも中央アジア諸国から中国への批判的言説が生じる可能性を封じ込めようとしているのであろう。これはすなわち、今後中央アジア諸国で中国批判が高まった場合、あるいは「新疆の分裂主義分子を幇助する動きを中央アジア諸国が抑止できない」場合、中国が「西安宣言違反」を理由に中央アジア諸国を制裁する可能性が生じたことをも意味する。
中国は常々「内政不干渉・相互尊重」という文言を繰り返し、とりわけ西側諸国の対中批判を強く牽制する。しかしそうであるならば、何故「各国人民が自主的に選択した発展の道を尊重する」というサマルカンド宣言の文言を踏み超える中共党体制への賛美を儀礼の場で言わせるのか。中国こそ、中央アジア諸国の対外認識に干渉しているのではないか。
新疆問題をめぐる中国側の周到な攻勢は、記念植樹の柘榴(ザクロ)の木にも現れている。習近平氏はかねてから、種がぎっしり詰まった柘榴の実を、56の民族が固く団結する「中華民族共同体意識」の象徴として持ち上げており、新疆のトルコ系イスラム教徒もまさに柘榴の種として他の民族と密接になるように、という大義名分のもとで過酷な弾圧と思想改造が行われている。
中央アジア諸国はこのような文脈をどこまで理解しているのか不明であるが、柘榴の花が咲く5月の西安で柘榴の木を植えたことでも、「民族団結」を通じて「安定」「発展」した新疆を足掛かりにさらに中央アジアにおける「国家間団結」を主導しようとする中国側のペースに隠然と巻き込まれた。
それにもかかわらず中央アジア諸国の首脳は、ときに硬い表情を見せながらも淡々と一連の行事をこなした。その背後にあるのは、中央アジア諸国を取り巻く安全保障が複雑さを増しているためであろう。(後編に続く)
2013年、中国の習近平国家主席が突如打ち出した「一帯一路」構想。中国政府だけでなく、西側諸国までもがその言葉に“幻惑”された。それから7年。中国や沿線国は何を残し、何を得て、何を失ったのか。現地の専門家たちから見た「真実」。それを踏まえた日本の「針路」とは。
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