2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年9月30日

 昨年10月、習近平氏は中共第20回党大会の場で、中国ナショナリズムの立役者である清末・民国期の思想家・梁啓超の「少年中国説」を持ち出し、「青年が強くなれば国家も強くなる」と強調した。この文章自体は、中国人であれば誰でもこれまでの教育を通じて知っている。中国はこれから国民国家を創る若々しさを秘めているという点で、実は老帝国ではなく少年のような国家であり、今後の世代が発奮して強さを求めれば、中国は必ず欧米日を凌駕できると説く。

 そして習近平氏は党大会が終わると、新たな党中央メンバーを伴って黄土高原の革命聖地・陝西省延安を訪れ、次いで河南省の用水路「紅旗渠」を訪れた。紅旗渠は1960年代、河南省北西部の慢性的な水不足解消のため、人々が「自力更生・艱苦奮闘」の精神による人海戦術に打って出て、多数の犠牲者を出しながら険しい山岳地帯に約70キロメートルの水路を掘ったものであり、中国革命史・社会主義建設史にとって記念すべき遺産とされる。

 そこで外界は「改革開放の最先端地に背を向けた習近平中国の今後は尻すぼみになるのではないか」という疑念を抱いたものの、筆者の見るところ習近平氏は今や、発展を云々するよりもまずは人心こそ最優先だと考え、自ら「大思政課」を実践したということになる。

 そして習近平氏は、「新時代の紅旗渠精神」として次のように喝破した。

 「社会主義とは、頑張り抜き、やり抜き、命と引き換えに実現するものだ! 過去においてそうであったのみならず、(習近平)新時代においてもそうである」(中華人民共和国教育部HP「進一歩激励青少年矢志奮闘、投身強国目標推進民族復興」。太字は筆者=平野による)。

〝英雄〟雷鋒に学ぶボランティア精神

 このような「最高指示」を踏まえて、中国教育部は昨年11月、小中学校 (日本の高校を含む)向けの「大思政課」建設方針を発表した。これは、語文(国語)・歴史に加えて体育・美育・労働教育に力点を置くことによって、「習近平新時代の新思想を学んで良き後継者となること」「小学から党史を学んで永遠に党と歩むこと」「英雄をたたえて率先して先鋒を務めること」「中華の伝統的な美徳を大いに弘めること」を強調する(中華人民共和国教育部HP「教育部関於進一歩加強新時代中小学思政課建設的意見」)。

 では、その「英雄」「先鋒」とは何者か。中国人であれば真っ先に思いつくのは雷鋒という人物である。実際、教育部は今年3月になると「新時代の《雷鋒》に学ぶ活動方針」を発表した。

遼寧省撫順市・雷鋒紀念館の雷鋒像(筆者撮影)

 雷鋒は湖南省の貧しい農民出身の解放軍人であり、軍人として優良であったのみならず、わずかな給与や余暇を人助けのために使い、遼寧省撫順市の人民代表大会代表にもなった「労働模範」であったが、1962年、運転中の軍用車が倒木の直撃を受けて死去した。毛沢東は、雷鋒の享年わずか23歳の生涯を「無私の奉仕の精神を代表するもの」と位置付けて、「雷鋒同志に学べ」と顕彰した。

 以来中共は、不正の気風を改め「社会主義精神文明建設」を盛り上げるキャンペーンを展開する際には、事あるごとに雷鋒の名を持ち出すほか、雷鋒は今日の中国でも一般的に非の打ちどころのない「良い人」の代表と思われている。

 そこで習近平氏は、改めて雷鋒を習近平新時代におけるボランティア精神の象徴として顕彰し、「誰もが平凡な生活の中で雷鋒の崇高な理念・道徳・信念を体現せよ」と強調したことで、雷鋒は「大思政課」の基軸となった(中華人民共和国教育部HP「教育部印発《教育系統関於新時代学習弘揚雷鋒精神、深入開展学雷鋒活動的実施方案》的通知」)。


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