2025年1月15日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年1月14日

中国ナショナリストの視線に追い詰められるチベット人

 以上のことから習近平政権は、中国と外国・「外部」とのつながりについて、それは中国文明と中国共産党の価値観を完全に共有する、「中華民族」の主導者たる漢人が担えば良く、少数民族(そして香港・台湾)は「中国文明の論理と関係なく外部勢力とつながり、祖国中華と中華民族の団結を壊す」ため信用出来ないと考えていることが分かる。

 その代わりに習近平政権は少数民族に対して全力で「中華の恩恵・温かさ」を届けようとし、それに表向き感謝する人々の表情を大々的に宣伝している。それは同時に、過去30〜40年来の経済発展と宣伝の中で広まった、「今度こそ、我々中国こそが本当に善意ある存在であり、チベット人の生存権を満たし、発展させる存在なのだと理解して欲しい」と願う、純粋培養的な中国ナショナリストの期待に応えるためでもある。

 日本では余り知られていないことだが、中国では既に経済発展と観光業の発達を通じ、チベットのイメージは、かつての毛沢東流の「残酷で暗黒な宗教封建社会」から、「自然と精神性豊かなかけがえのない土地であり、そのようなチベットが中国の一部分であることが誇り」という見方に変わっている。それゆえに、ダライ・ラマや西側諸国など「外部勢力」が、中国の「善意」をよそにチベットで一層大きな影響力を持ちうる可能性を恐れ傷つき、激しく反発するという思想構造がある。

 このような状況の下、チベット現地に住む人々には選択の余地は全くない。彼らは、中国と「外部」との関係がこじれるほどますます、習近平・中国共産党・純粋な中国ナショナリストの「善意」を受け取り感謝することのみが認められている。

 このような状態は、被災した人々にとってどの程度慰めになるのだろうか。これは単にチベットだけの問題ではない。「中国が真の恩恵をもたらし主導する世界」なるものが将来もしも実現した場合、日本も含め如何なる国・地域も逃れられない問題なのである。

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