筆者は本連載「医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から」では、連続していじめ問題に言及している。まず、2023年2月に「1枚の診断書がいじめ自殺を防ぐ 医師だからできること」と題する小文を記し、ついで、24年4月に「【いじめ自殺を防ぐ1枚の診断書に全国から殺到】現役精神科医が語る「法と医者は使いよう」、学校の対応が遅いと言われるのはなぜ?」と題して書いている。
反響は大きく、いじめ防止対策推進法(以下「同法」と略す)に言及した診断書を求めて、各地から筆者の外来が訪れる。筆者の非常勤先である東京都港区の診療所は交通の便もいいので新幹線で受診してくる人もいる。その日一日の初診患者の全員がいじめ被害者ということもあった。
もっとも、筆者は一介の医師であり、精神科医であるにすぎない。法律家ではない。精神科医として法に言及した診断書を発行するとしても、それは法律事務を取り扱っているわけではない。学校・学校設置者に対してこころの健康に関する注意喚起を行っているだけである。患者・家族のなかには、医師である筆者に強い法的アクションを求めてくる人もいるが、それは医師の管轄ではない。