2025年1月15日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年1月14日

 具体的には、ダライ・ラマに次ぐ重要な活仏(大乗仏教の精神で何度でも生まれ変わり人々を救うとされる)であるパンチェン・ラマ11世を1990年代に選ぶ際、本拠であるシガツェのタシルンポ寺が中国とではなくダライ・ラマ14世と連絡を取っていた事実や、ダライ・ラマ14世が経済発展による贅沢を戒めたところ、各地で人々がこぞって贅沢品を焼いたという出来事である。その都度中国はダライ・ラマ批判を人々に強要し、とりわけ僧侶に対しては厳格な愛国主義教育への参加を義務づけたが、ついに反発が2008年の独立運動として噴出した。

 このとき中国共産党のトップであった胡錦濤は、1989年早春にラサでのチベット独立運動を鎮圧したことが鄧小平に認められてトップに登り詰めた人物であり、2008年のより大規模な独立運動を徹底的に鎮圧した。同時に胡錦濤は、中国が「世界の工場」の座を固めた中、経済的威圧を使うことで西側の批判を封じ込めた。

 その後、北京オリンピック(五輪)が成功し、リーマン・ショックも起こると、ついに中国はグローバル外交における低姿勢(韜光養晦)を改めて明確な大国化路線に舵を切り、「和諧(調和)社会」というスローガンも強権による「社会の安定」と同義となってしまった。

今度こそチベット人を「中華民族」にしようとする習近平

 続く習近平政権は、高度成長期の江沢民・胡錦濤政権と比べて経済に暗く特異なように見えて、実は改革開放史を通じて次第に顕在化した西側への対抗・漢人主導の「中華民族」主義をいっそう明確にした存在である。ある意味で、20世紀以来の中国ナショナリズムが行き着いた「正統」な姿である。

 その習近平政権は、西側諸国を完全に出し抜いて中国が世界を主導する「中華民族の偉大な復興」を実現しようとする中で、「中国の発展は、世界最古最長の文明にして強い凝集力を持つ中国文明の智慧によって実現される」というショービニズム的発想を全開にしている。そこで習近平は、今こそ中国内のあらゆる少数民族、そして香港(さらに台湾)も「中華民族の大家庭」の一員としての自覚を徹底的に固め(「中華民族共同体意識の鋳牢」)、各民族があらゆる場面で互いに嵌まり合い融け合うかたちでの発展を実現せよと説く。

 新疆で2017年以後出現した極端な監視社会・強制収容所体制はその典型であるが、チベットでもその前から近似の手法はとられており(新疆の事態を引き起こした党委員会書記である陳全国の前任地はチベットであった)、チベット仏教を中心に創りあげられてきた独自の社会と文化、そして文字と言語はいよいよ存亡の危機に晒されている。

 具体的には、チベット語による教育は既に2000年代から大幅に狭められていたところ(小学4年以上では主要科目は華語のみ。これに加えて英語=外国語と同じような位置づけで、申し訳程度にチベット語の授業あり)、最近では小学1年から完全に全教科で華語化され、将来にわたるチベット語・文字文化の再生産に大きな疑問符がつく事態となっている。

 また「宗教中国化」、すなわちあらゆる宗教から外国・「外部勢力」とのつながりを消し、中国共産党が導く「中華民族」の枠内で完結した信仰に書き変えるという方針のもと、経典も華語訳したものを使うよう求められ、拒否すれば「ダライ・ラマ分裂主義分子の影響を受けた」として処罰されている(RFA=ラジオ自由アジアにおける2022年頃のチベット関連記事を読むと、このような改変が矢継ぎ早に行われたことが分かる)。


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