フィナンシャル・タイムズ紙は、1月13日付けで、トランプのカナダ、パナマ、グリーンランドへの主張を背景に、領土拡張主義と隣国・同盟国への脅しは世界に警報を鳴らしている旨のラックマンの論説‘Trump risks turning the US into a rogue state’を掲載している。概要は次の通り。

カナダは米国の51番目の州になれば良いとトランプが最初に言い出したとき、カナダの駐米大使は「トランプ次期大統領はジョークを言っているのだと思う」と述べた。威嚇的なジョークはトランプが好むコミュニケーションの手段である。
一方、トランプがこれだけ長い間、カナダを米国に統合するとの野望を語り続けてきた以上、カナダの政治家としても、トランプの野望を真に受けざるを得ず、それを公開の場で否定せざるを得なくなった。
トランプがカナダに侵攻する可能性を否定し、「経済の力」でカナダを脅すと言ったことで、カナダは少しホッとしたかもしれないが、一方、トランプはパナマ運河を取り戻し、グリーンランドを手に入れることについては、軍事行動を否定しなかった。
ドイツの首相、フランスの外相はトランプの威嚇を真剣に受け止め、グリーンランドは欧州連合(EU)の相互的防衛の条項でカバーされていると述べた。少なくとも理論上は、EUと米国とがグリーンランドを巡って戦争する事態も可能性がないわけではない状況だ。
小国が力により、また、威圧により、近隣の大国に呑み込まれる事態となるかは、世界政治にとって最大の警報となってきた。それは、ならず者国家が闊歩する兆候である。だからこそ、西側の同盟はウクライナのロシアへの抵抗が重要と考えてきた。
トランプ支持者は、トランプのレトリックを過去・現在の侵略者と比較することを好まず、トランプは、自由世界を強くするため、中国やロシアに対抗するためにこうした主張を行っているのだという。トランプ自身、カナダ、グリーンランド、パナマについての主張を国家安全保障の観点から正当化している。
大きな戦略としてみると、トランプがやっていることは、ロシアと中国へのプレゼントに他ならない。米国がグリーンランドやパナマ運河を手に入れることが戦略的な必要性であると主張するのであれば、ロシアにとってウクライナを支配することが戦略的な必要性であるとプーチンが主張することはなぜいけないことになるのだろうか。米国にとって国境を広げることが「明白な天命」であるのであれば、中国にとって台湾を支配することが明白な天命であると習近平の主張に反対できるのだろうか。