ロシアも、中国も、長年にわたって、西側同盟をバラバラにしようと夢見てきた。トランプは両国に代わって、両国が成し遂げたかったことをしている。
トランプが脅しを実施に移さないとしても、トランプは既に米国の世界における立場と米国の同盟体制に大きな損害を与えている。まだ就任前だというのにこの状況である。
トランプがグリーンランドに侵攻するよう命令することはありそうにない。カナダが独立を差し出すこともそれ以上にありそうもない。しかし、大統領が国際規範を引き裂く様は惨事である。
トランプの発言をジョークと笑って済ますのは場違いである。われわれが目にしているのは、コメディではなく、悲劇である。
* * *
「発想」をどこまで「政策」にするか
一連のトランプ発言からは、トランプの基本的な発想の根本がいくつか見えてくる。第一、最も大事なのは自国の利益であり、拡張は善である。第二、力のある国は、自ら持つ力を使って自らの利益の増進を図って良い。第三、従来の秩序とかルールとかは無視しても良い。
こうしたトランプの発想は、弱肉強食の世界、リヴァイアサン的世界である。国際社会の構成要素を《力》、《ルール》、《理念》の三つと捉えるならば、《力》の原理の信奉者であり、プーチンの世界観とも共通するところがあり、過去に、トランプがプーチンに親近感を寄せる発言を行っていたこともうなずける。
ラックマンは、昨年末のコラムで米国が修正主義国家となったと指摘したが、少なくともトランプの発言には、そうした要素がある。こうしたトランプの基本的な発想は、これまでの国際秩序を支えてきた理念・原則にとらわれていないことを示しており、むしろ不動産取引、企業のM&Aを念頭に置いた方が、理解しやすいかもしれない。
こうしたトランプの発想が、どこまで実際の米国の政策として反映されるのかは、今後の問題である。議会はある程度のブレーキ役になろうが、行政府については、「トランプ色」で染め上げられる可能性が高い。
ただし、発言はかつてのツイートと同様に、苦労なく繰り出すことができるが、その内容を現実化することは、発言を繰り出すほど容易ではない。また、トランプは、「取引主義的」であり、こうした主張を繰り出して、圧力をかけ、相手にとって受け入れ可能な妥協策を引き出す作戦であるかも知れない。