「こんにちは、輪島市からの訪問スタッフの中口です。おいでませんか」
雪がちらつき始めた12月中旬。輪島市西部にある門前町の浦上第一仮設団地では、仮設住宅の支援員である中口喜久夫さん(65歳)が一軒一軒、玄関先のチャイムを鳴らし、こう声をかけていた。
門前町で生まれ育った中口さんは1月の地震直後から避難所運営に尽力してきたが、避難所の閉鎖に伴い、9月から仮設住宅の「見守り」を行っている。多いときは1日20軒ほど訪問し、独居の高齢者に対しては、孤独死を防止するために自宅内への「緊急通報システム」の設置をお願いすることもあるという。
中口さんは出てきた住民に対し、「最近どうね? ちゃんと食べてる?」と優しいトーンで尋ねていく。会話の中で「エアコンがつかなくなった」と聞けば家に上がってフィルターの掃除もする。
「できることなら何でもします。たとえ『大丈夫』と言われても、それを信用してよいのか、相手の表情や立ち姿からも違和感がないかを気にして見ています」
訪問は事前連絡制ではないため、不在の場合もある。そんな時は電気やガスのメーターを確認することになっている。ただ、中口さんは、玄関先の靴の有無や裏手に回って室外機が動いていないか、時には窓からの声掛けも行って本当に不在かを確認する。
ここまで徹底するのには理由がある。
「仮設住宅への入居が始まって2週間くらいの時に79歳の女性が亡くなりました。孤独死でした。実はその方が亡くなる2日前に私は訪問をしていたんです。ただ、チャイムに反応がなく、居住空間に鍵も掛かっていたので、外出中として対応しました。あの時、無理にでも緊急通報システムを設置してもらっていれば助けを呼べていたかもしれませんし、何より自分が訪問した時に、もっとやれたこともあったのではないか……」と悔しさを滲ませる。
それ以降、情報収集には力を入れている。ただ、「個人的な話は、こちらから『聞き出す』にも相手から『言い出す』にも勇気がいる」とその難しさも指摘する。
「支援員のマニュアルには、地震の被害状況を聞くことや、今後どうするのかといった踏み込んだ質問はタブーとなっています。でも、僕は『同じ被災者』として、そこにもあえて踏み込んでいます。17年前の地震でも被災し、結局お互いに寄り添いながら進んでいくしかないことを痛感したからです。信頼関係を築き、単なる〝アンケート〟ではない、心の通った問いかけができれば、相手も心を開いてくれると思っています」
こうした関係性を構築することこそが、安否確認にとどまらない支援につながることを知った。