2025年2月7日(金)

災害大国を生きる

2025年2月3日

自発的なつながりを作る

 孤立防止には被災者同士の交流の「場」を設けることも有効だ。穴水町の陸上競技場内につくられた応急仮設住宅由比ケ丘団地には、管理棟にNPO法人レスキューストックヤード(RSY)が立ち上げた交流拠点「ボラまち亭」がある。

 施設内では週3回、支援物資を無料配布する「おすそわけ」が行われており、多い日には1日100人が訪れる。配布は先着の整理番号順。待ち時間や配布後の時間は隣接した「交流スペース」で自由に過ごすことができる。コーヒーを飲みながらこのスペースで談笑していた高齢女性は、「正直、物資自体にはそんなに期待していないの。でも、ここでの出会いがあったり、みんなと話す場として、とても重宝しています」と話す。

ボラまち亭では水や食品だけでなく日用品のおすそわけもある

 被災者同士の新たなつながりも生まれている一方で、RSYの西井春華さん(26歳)は、「利用者の多くが女性で、男性同士の交流には難しさがある」と指摘する。

 では、男性が外に出るためには何が必要なのか。珠洲市でそのヒントを見た。

 同市のシンボルの見附島を一望できる海岸沿いにある見附公園。小誌記者が早朝、園内を散策していると、高齢の男性4人と女性3人のグループがグラウンドゴルフを楽しむ姿が目に入った。

珠洲市でグラウンドゴルフを楽しんでいたシニアの皆さん

 地震前は雨の日以外、毎日開催されていたという。地震によって一時的に中断されていたものの、数カ月がたった頃から、誰が声掛けをしたわけでもなく、自然と人が集まるようになった。

 仲間たちから「職人」と呼ばれ、正確なショットを次々と打っていた90歳の男性は「グラウンドゴルフをしているときは、他に何も考えなくていいから、息抜きになって純粋に楽しいんです。いい運動にもなっていますよ」と話す。

 女性たちは「井戸端会議」が得意だが、男性は興味を持てない場合が多い。男性にとってはグラウンドゴルフのような「目的」があることは、外に出るための後押しになる。

 ただ、その目的となりうるスポーツや娯楽を楽しめる場所は、発災後、仮設住宅の建設などによって激減してしまった。仮設住宅生活での孤立を防ぐためには、見守りといった支援に加え、被災者たちが自発的なつながりを作ることができるような「余白」を確保することも必要なのではないだろうか。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2025年2月号より
災害大国を生きる 積み残された日本の宿題
災害大国を生きる 積み残された日本の宿題

「こういう運命だったと思うしかない」輪島市町野町に住んでいた小池宏さん(70歳)は小誌の取材にこう答えた。1月の地震で自宅は全壊。9月の豪雨災害時は自宅周辺一帯が湖のようになったという。能登半島地震から1年。現地では今もなお、土砂崩れによって山肌が見えたままの箇所があったほか、瓦礫で塞がれた道路や倒壊した家屋も多数残っていた。日本は今年で発災から30年を迎える阪神・淡路大震災や東日本大震災など、これまで幾多の自然災害を経験し、様々な教訓を得てきた。にもかかわらず、被災地では「繰り返される光景」がある。能登の現在地を記録するとともに、本格的な人口減少時代を迎える中、災害大国・日本の震災復興に必要な視点、改善すべき方向性を提示したい。


新着記事

»もっと見る