自発的なつながりを作る
孤立防止には被災者同士の交流の「場」を設けることも有効だ。穴水町の陸上競技場内につくられた応急仮設住宅由比ケ丘団地には、管理棟にNPO法人レスキューストックヤード(RSY)が立ち上げた交流拠点「ボラまち亭」がある。
施設内では週3回、支援物資を無料配布する「おすそわけ」が行われており、多い日には1日100人が訪れる。配布は先着の整理番号順。待ち時間や配布後の時間は隣接した「交流スペース」で自由に過ごすことができる。コーヒーを飲みながらこのスペースで談笑していた高齢女性は、「正直、物資自体にはそんなに期待していないの。でも、ここでの出会いがあったり、みんなと話す場として、とても重宝しています」と話す。
被災者同士の新たなつながりも生まれている一方で、RSYの西井春華さん(26歳)は、「利用者の多くが女性で、男性同士の交流には難しさがある」と指摘する。
では、男性が外に出るためには何が必要なのか。珠洲市でそのヒントを見た。
同市のシンボルの見附島を一望できる海岸沿いにある見附公園。小誌記者が早朝、園内を散策していると、高齢の男性4人と女性3人のグループがグラウンドゴルフを楽しむ姿が目に入った。
地震前は雨の日以外、毎日開催されていたという。地震によって一時的に中断されていたものの、数カ月がたった頃から、誰が声掛けをしたわけでもなく、自然と人が集まるようになった。
仲間たちから「職人」と呼ばれ、正確なショットを次々と打っていた90歳の男性は「グラウンドゴルフをしているときは、他に何も考えなくていいから、息抜きになって純粋に楽しいんです。いい運動にもなっていますよ」と話す。
女性たちは「井戸端会議」が得意だが、男性は興味を持てない場合が多い。男性にとってはグラウンドゴルフのような「目的」があることは、外に出るための後押しになる。
ただ、その目的となりうるスポーツや娯楽を楽しめる場所は、発災後、仮設住宅の建設などによって激減してしまった。仮設住宅生活での孤立を防ぐためには、見守りといった支援に加え、被災者たちが自発的なつながりを作ることができるような「余白」を確保することも必要なのではないだろうか。