2024年11月21日(木)

食の「危険」情報の真実

2024年6月27日

農薬の生態リスクは減少

 自閉症はどの先進国でもおおむね増加しているが、週刊誌の記事ではたいてい日本と韓国だけが誇張される。ちなみに温暖で湿度の高い日本の気候・風土は病害虫が発生しやすく、農薬の使用量が多くても何ら不思議ではない。重要なのは、農薬の使用量自体よりも生態系への影響が大きいかどうかである。

 ほとんど知られていないが、農研機構農業環境研究部門(茨城県つくば市)が22年9月、農薬の生態リスクは減っているとの重要な研究結果を公表している。

 水稲用の農薬67種による生態リスク(水生生物への影響)を全国の河川350地点で評価したところ、1990年~2010年の20年間で殺虫剤のリスクは92.4%、除草剤のリスクは53.1%の減少が見られたというのだ。つまり、農薬が生物に及ぼす生態リスクは大幅に減っているのである(図表2)。

(出所)『フェイクを見抜く』 写真を拡大

 この研究結果は科学環境関係の記者クラブにリリースされたが、ほとんどニュースになっていない。農薬にまつわる良い話はニュースになりにくいことがよく分かる。

 調査した67種類の農薬には殺虫剤のネオニコチノイド系農薬6種類も含まれる。水生生物に対する農薬のリスクは大幅に減っていることをぜひ覚えておきたい。

 さらに言えば、日本では過去20間で発達障害が激増したとの指摘もあるが、その間、日本の農薬使用量や出荷量は平均で2割~6割程度減っている(「農薬概説」など参照)。どうみたって農薬に罪を着せるのは難しい。

農薬と発達障害に関連なしの調査も

 ついでに、もうひとつ重要な研究結果をお伝えしよう。

 発達障害との関係でよく話題となるネオニコチノイド系農薬に関して、23年11月、国立環境研究所エコチル調査コアセンターが公表した研究報告だ。調査解析は8538組の母子のデータを用いた。

 妊娠中の母親の尿から検出されるネオニコチノイド系殺虫剤を含む9種類の浸透移行性殺虫剤とその代謝物の濃度と、4歳までの子どもの発達指標(保護者が記載した質問票)との関連を解析した結果、農薬と発達指標との間に統計学的な関連は見られなかった。研究の成果は、23年10月13日付で環境保健分野の学術誌『Environment International』に掲載された。

 この結果も関係記者クラブにリリースされたが、ニュースにはなっていない。この研究ひとつをもって確定的なことが言えるわけではないが、やはり週刊誌をはじめメディアは危ない話には興味を示すが、農薬にまつわる良い話には興味を示さないようだ。


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