2023年12月1日(金)

食の「危険」情報の真実

2023年8月31日

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平沢裕子 (ひらさわ・ゆうこ)

産経新聞記者

1962年青森市生まれ。医療系出版社勤務を経て、産経新聞社に入社し、長野支局、社会部、文化部を歴任し、約30年にわたって、医療や健康、食品をめぐる記事を執筆する。現在は厚生労働省の食品安全制度懇談会構成員や農林水産省の農業資材審議会農薬分科会委員なども務める。薬に関する記事で「第22回ファイザー医学記事賞優秀賞」を受賞している。

 水道水から目標値を超える有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)検出――。今年に入り、こんな報道を目にする機会が増えた。

 8月中旬にも、岐阜県各務原市で水道水の水源から暫定目標値を超えるPFASが検出されたとして、市長が会見する様子がニュースで報道されていた。こうしたニュースに触れると、自分の居住地でなくても、水道水の安全性に疑問を抱く人もいるのではないだろうか。

(Liudmila Chernetska/gettyimages)

 水道水については、かつて「薬くさくて飲めない」など品質が問題になった時代もあった。今は高度浄水処理の導入によって、おいしさという点でも高い評価を得るようになっているが、安全面はやはり気になる。改めて水道水の安全、そして品質について考えてみたい。

PFASの実際の危険性

 PFASは、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称で、水や油をはじくなどの性質からフッ素加工フライパンやハンバーガーの包装紙などにも使われてきた化学物質。経済協力開発機構(OECD)の報告では約4700物質が特定されている。このうち、ペルフルオロオクスタンスルホン酸(PFOS=ピーフォス)とペルフルオロオクタン酸(PFOA=ピーフォア)が近年、環境残留性や長期毒性の疑いなどから国際的に製造が禁止されている。

 水道水中のPFOSやPFOAについては、厚生労働省が2020年4月1日から水質管理目標設定項目に追加し、暫定目標値をPFOS・PFOAの合計で1リットル(ℓ)当たり50ナノグラム(ng)以下と設定した。これは、体重50キログラム(㎏)の人が、1日2ℓの水を一生涯にわたって飲んでも健康に対する有害影響が現れないと考えられる値だ。岐阜県各務原市では、水道水がこの暫定目標値を超えていることが判明したことで問題になった。

 どれぐらいの汚染かというと、最大で暫定目標値の2.6倍の1ℓ当たり130ng検出されており、昨年4月以降に実施した検査ですべての月で目標値を上回っていたという。1年以上もPFOS・PFOAが暫定目標値を超えていた水道水を飲んでいたと思うと、対象の地域に住む人は大丈夫だろうかと心配になるかもしれない。

 では、実際のリスクはどれぐらいなのだろう。米環境保護庁(EPA)の推定によれば、暫定目標値の10倍である1ℓ当たり500ngの水を飲んだ場合、精巣がんのリスクが100万人に1人増加するという。

 日本人男性の精巣がんの頻度は10万人に1~2人なので、10倍の水で10万人に1.1~2.1人になる。各務原市の汚染は最大で暫定目標値の2.6倍なので、これよりもリスクはさらに小さいといえる。


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