2024年5月20日(月)

食の「危険」情報の真実

2023年8月31日

 各務原市では、汚染が確認された水源地に活性炭を使った除去システムを導入し、11月末までに目標値以下の水道水を供給することを目指している。システム導入まで数カ月あることから、小中高の学校施設では水道の蛇口に浄水器を取り付けるとのことだが、一般家庭に浄水器を配るなどの対応はしない。浄水器の取り付けは、安全対策というよりは不安への対応といえ、自治体が使える予算を考えると妥当な判断だろう。

 同市がサイトに設けたQ&Aでは、不安な人は活性炭による除去性能を備えた家庭用浄水器かミネラルウォーターの利用を提案している。もちろん本来はなかったリスクなのだからどんなに小さくてもリスクがあるのは嫌だと思う人もいるだろう。ただ、もし筆者が男性で、対象地域に住んでいるとしても、この程度のリスクなら気にせずに水道水を使い続けると思う。

 PFASについて、新聞やテレビのニュースで「発がん性」や「胎児や子供への影響」があるかのように報じられるのを散見する。このためか、PFASを「よく分からないけどヤバい物質」と思っている人は少なくない。しかし、これまでに分かっている研究結果からは、「発がん性」や「胎児や子供への影響」のリスクは、あったとしてもかなり小さそうということだ。

 規制は科学だけで決まるわけではなく、政治や経済、世論なども影響する。みんなが不安に思えば規制は厳しめになる。厳しければ厳しいほど安全になるわけではなく、必要以上の過剰な対応は、別のリスクを増やすかもしれない。

 〝安心〟のために必要以上に税金が投入されれば、本来は必要な安全対策が行なわれなくなるためだ。しかし、そこのところがなかなか理解してもらえない。もちろん、安全のために必要な規制はするべきだが、欧米の対応を見るかぎりでは、科学だけで数値が決まっているわけではないという印象だ。

放射性物質への懸念の正体

 水道水の汚染ということでは、12年前の東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故後、東京都の水道水から乳児の摂取制限値を超える放射性ヨウ素が検出されたことがあった。このとき都では乳児のいる家庭にペットボトルの水を1人当たり3本配布。乳児のための水だから粉ミルク用に使えると思った人もいただろうが、直後に粉ミルクメーカーなどが「粉ミルクに硬水のミネラルウォーターを使わないで」と注意を呼び掛けた。

 どういうことかというと、粉ミルクはミネラルの少ない軟水の水道水で作ることを前提にしており、硬水のミネラルウォーターを使うと乳児の腎臓に負担をかける可能性があるという。

 例えば6カ月までの乳児の場合、カルシウムの1日当たりの摂取量は200ミリグラム(㎎)が目安で、粉ミルクには100ミリリットル(㎖)当たり約35㎎が含まれている。硬水のミネラルウォーターの中には1ℓ当たり500㎎近いカルシウムが含まれているものもあり、この硬水で作ったミルクを飲ませると、乳児は目安以上のカルシウムを取ることになる。

 過剰に取ったカルシウムは排出することになるが、それは赤ちゃんの腎臓に大きな負担をかけることなのだ。都が当時配布した水が硬水だったかは不明だが、水道水を不安に思い、乳児の母親がミネラルの多いペットボトルの水を購入して粉ミルクに使うというケースはあっただろう。


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