企業の生産活動に水は欠かせないが、多くの水資源を使用する業種とは何か。経済産業省によると、日本における工業用水の業種別使用割合は、パルプ・紙・紙加工品製造業(27%)、化学工業(22%)、鉄鋼業(14%)だが、近年は莫大な水量を使用する業種が登場している。半導体産業である。半導体は特定の物質を加えて用途ごとの電気的性質を与える。不純物が付着すると性質が変化してしまうため、洗浄に純度の高い水が大量に使われる。
台湾の半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)のCSRレポートによると、2019年には台湾の3つの科学工業団地で、1日当たり合計15万6000トン、20年には同19万3000トンの水を使用した。半導体が高性能化し回路線幅が小さくなると不純物を取り除くための水使用量はさらに増え、次世代チップは1.5倍の水を消費すると予測されている。
意外なところではChatGPTだ。米カリフォルニア大学の研究チームのレポート「Making AI Less ‘Thirsty’ 」によると、ChatGPTのトレーニングに必要な水量は原子炉の冷却水タンクとほぼ同量という。主としてデータセンターの冷却水で、ChatGPTで25〜50個の質問をすると500ミリリットルの水が必要になるという。今後AIの活用が世界的に進むと考えられるが、水を「戦略物資」として認識し、持続的に活用することが鍵を握るだろう。
一方、世界的には水資源の枯渇が懸念されている。地政学リスク専門のコンサルティングファーム、ユーラシア・グループが公表した「TOP RISKS 2023」にも「逼迫する水問題」があげられている。水はもともと地域に偏在しているが、一定量の水がある地域でも過剰な使用、汚染などの人間の使い方の問題がある。さらに気候変動による気温上昇も水不足に拍車を掛ける。水が少ない地域では干ばつが発生しやすくなり、水の多い地域では雨が降りやすくなるため、水資源の地域偏在はさらに進む。
こうした中で企業は水リスクへの対応を始めている。全ての国内総生産(GDP)は自然を何らかの形で利用して生み出されるという前提で考えると、今後、環境問題は自然資本という考え方で経済システムに組み込まれ、環境負荷に対する情報開示が求められる。
現在注目されているのが国際会計基準(IFRS)の情報開示案だ。国際会計基準審議会(IASB)によって設定された会計基準の総称で、各国で上場するには国際会計基準で財務諸表を作る必要があり、今後世界標準になるだろう。この中には企業が水をどう使うかという情報も当然含まれる。