2024年12月12日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2023年2月26日

 石油や金属、穀物などの資源はコモディティーと呼ばれ、その売買を担う企業はコモディティー商社と称される。その実態は長い間、秘密のベールに覆われ、正体はなかなかつかめなかったが、二人のベテランジャーナリストが、長年にわたる丹念な取材で明らかにした。

(Martin Barraud/gettyimages)

実質的に歴史を作ってきた存在

 コモディティー商社は、世界各地の資源国や埋蔵地域に根を張り、巧みなビジネス手法で利益を上げてきた。それらは目立たないながらも世界経済を動かす大きな力を持ってきた。著者はこう記す。

 ほとんど誰もが、自動車を満タンにし、新しいスマートフォンを買い、コロンビアコーヒーを注文することが簡単にできるのを当然のように受け入れている。だが、私たちの消費を根底で支えているのは、天然資源の国際取引という熱気あふれる世界だ。そして、その取引を支えているのが、スイスやニューイングランドの静かな町にオフィスを構えるコモディティー商社なのである。
 注目もほとんど浴びず、ろくに顧みられることもないが、コモディティー商社は現代経済に欠かせない歯車となっている。

 コモディティー商社は、その取引で世界の戦略的資源の流れをコントロールしているがゆえに、みずから政治的な力も持つようになる。彼らは表向き政治と無関係であるように装うが、実質的に歴史を作ってきたと言える。

 本書『THE WORLD FOR SALE 世界を動かすコモディティ・ビジネスの興亡』(日本経済新聞出版)では、コモディティー商社がイラクでサダム・フセインが国際制裁をくぐり抜けて石油を売るのに手を貸したことや、キューバではフィデル・カストロを相手に砂糖と石油を交換して社会主義革命を助けたこと、冷戦の最盛期に米国産トウモロコシを密かにソ連に売って支えたことなどが紹介される。

 他の企業が足を踏み入れようとしない場所でも進んでビジネスを行い、非情な姿勢と個人的な魅力の組み合わせによって大きな結果を出す。しかしここ数十年、コモディティー商社がどんどん重要性を増す一方で、依然としてその数は多いとはいえない、

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