2024年11月25日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2023年2月26日

 世界で取引される資源の大半をほんの数社で取り扱っているのもコモディティー商社の特徴である。本書によると、最大手の石油商社5社で日量2400万バレルの原油やガソリン、ジェット燃料などの精製品を扱っているという。そうした大きな存在ながら非公開会社が多く、自社の情報を一切明かさない姿勢も目立っている。

 そもそもコモディティー取引の形は、第二次世界大戦の数年後から始まった。コモディティー商社はそれまで狭く、ニッチな分野で活動していたが、1950年代に入って世界経済の中で存在感を示すようになる。

 非公開会社が多かった中で、2011年にグレンコアがロンドン市場で史上最大の株式上場を果たす。本書は75年にわたって石油、金属、農業といった取引市場を支配し、グローバル経済の発展に重要な役割を演じてきた多くの会社に焦点を当て、実像を明らかにしようと挑んだ。その結果、その活動の様子が明らかになってくる様子は印象的だ。 

どうやって力を持つようになったか

 コモディティー商社の台頭の要因について、本書は主に以下の四つの変動を大きな理由として挙げている。

 一つめは、かつては厳格に統制されていた市場が――なかでも石油の市場が開放されたことである。(中略)
 二つめは、一九九一年のソビエト連邦の崩壊である。この事件は世界の経済関係と政治的主従関係のネットワークを一気に描き直した。(中略)
 三つめは、二一世紀の最初の一〇年に起こった中国の目覚ましい経済成長である。中国経済の工業化に伴い、膨大なコモディティーの新規需要が生まれた(中略)
 四つめは、一九八〇年代に始まった世界経済の金融化、および銀行部門の拡大である。(中略)いまの商社は急に借入金と銀行保証を利用できるようになり、はるかに大量の取引とはるかに多額の資金調達が可能になった。

 こうした環境変化の中でも、石油輸出国機構(OPEC)と関係する部分は興味深い。OPECの台頭に伴って、石油売買のカギを握る主役が欧米の大資本からコモディティー商社に変化していく場面である。

 OPECが石油市場と世界経済を覆し、セブン・シスターズの支配を永久に終わらせ、コモディティー商社の手に巨大な力がもたらされる時代だ。産油国が石油産業を国有化するにつれ、コモディティー商社はその原油を国際市場へ売りに出すための重要なパイプ役となった。石油の売買を決定する主役が大手石油会社からコモディティー商社へと移り、中東、アフリカ、ラテンアメリカの新たな石油国家へと権限がもたらされた。

 本書ではコモディティー商社が成長するにつれグローバル取引の重要なプレーヤーになっていくダイナミックな様子が見て取れる。インドやロシア、中国、インドネシアなどが「新興国市場」と呼ばれる以前から、コモディティー商社はそうした地域に関心を持ち、貪欲に向かっていく様子はスパイ映画さながらだ。


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