エネルギー問題の世界的な権威が現代の動きを読み解いた壮大な解説書である。テーマはエネルギーにとどまらず、国際政治や気候変動問題にまで及び、世界規模の課題を幅広く網羅している。地域ごとの論点を「地図」の中に落とし込み、歴史的な背景や直近の動きを踏まえて、立体的に分かりやすく解説した。
著者がとりあげるのは6つの地図である。米国、ロシア、中国、中東の4地域のほか、自動車、気候の2つの分野にも及ぶ。いずれも伝統的にエネルギー問題のキープレーヤーであった4つの地域であり、さらに現代社会で最も関心を集めている分野を扱った。
日本語版の本書『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』 (東洋経済新報社 )は500ページを超える大著ながら、読む者を最初から最後まで飽きさせない。英語版原題は「THE NEW MAP : Energy, Climate, and the Clash of Nations」であり2年前に書かれたものだが、現在のロシアのウクライナ侵攻についても予測するかのような深い分析を展開している。
シェール革命が生んだ地政学的変化
本書はまず米国の状況から説き起こす。最近20年ほどの米国のエネルギー問題のトピックはシェールガス、シェールオイルの発見とそれにともなう社会的・経済的な革命であり、世界の地政学的課題にも影響を与えるようになった。
テキサス州の産油量は10年間で5倍に増え、サウジアラビア以外の石油輸出国機構(OPEC)全ての国の産油量を上回ったと本書は指摘する。シェール開発で米国は世界の主要な石油産出国に躍り出たことはまさに革命であり、本書はそのことをこう指摘する。
影響はこれだけにとどまらない。地政学上の重大な変化ももたらした。ロシアは世界最大の天然ガスの生産国だったが、シェール革命はロシアの脅威となり、各国の相対的な地位を変えうるものになった。米国が中東に「遠慮」する必要がなくなり、ロシアに天然ガスを依存していた欧州は、調達先が多角化されたからだ。