地域分析とは別に興味深いのは自動車や気候についての「地図」である。電気自動車の開発や自動運転の技術の深化、大規模な配車サービス(ライドヘイリング)などにも言及し、エネルギーとの関連については、「電気自動車になればガソリンスタンドに行かなくてすむが、充電は必要で大きな壁がある」と指摘する。充電時間や充電設備の整備が必要で、ガソリン車の利便性をどう上回るかははっきりしない、との考え方はうなずける。
さらに気候については、多くの国で最上位の政策にまで引き上げられているが、脱炭素の目標までの道筋はまだまったくと言っていいほど明確になっていないとも指摘する。20年後、30年後のエネルギーの風景については、低炭素化は進んでいるものの、今後数十年はこれまでと同じように複数の発電方法がミックスされたエネルギーシステムになりそうだと予測する。自動車や気候分野に関して驚くような記述はないものの、これまでの経緯を分かりやすくコンパクトにまとめた手法には学ぶ点が多い。
あらゆる分析だからこそ見えるエネルギー問題の深遠さ
本書最後の「結論」で、著者はエネルギーの未来については、こう指摘する。
さらにコロナ危機でエネルギー転換は加速するかという点はこう結論づける。
6つの地図で世界の状況を読み解いた本書の壮大な取り組みは、著者のマルチな才能の絶妙な融合である。エネルギーの専門家でありつつ、同時に地政学に通じた国際政治学者であり、さらに歴史家、哲学者であり、そして幅広く綿密な取材や情報収集を重ねるジャーナリストでもある。これだけの力をもって分析しても、まだ見通せないことが多いというのは、エネルギーを取り巻く世界の深遠さでもあろう。
1991年のソ連崩壊後の30年間を眺めても、数々の大きな変化があった。今後も日々、刻々と変化が蓄積し、2030年や50年という節目には、一段と大きな変化が起きているのだろう。
これまでも「石油の世紀」や「探求」など多くの重厚な書を世に送り出してきた著者は、今回も渾身の力作で現代のエネルギー情勢を丁寧に解説してくれた。そして現在進行中の状況を今後どう記し、分析するのか。今から楽しみである。