2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2023年2月26日

 コモディティー商社のビジネスモデルはシンプルで、ある時期、ある場所で買った資源を、別の時期に別の場所で売り、その過程で価格の変動を利用して利益を得る。本書はそれを「優れたさや取り業者」と表現する。本書では最近の事例も紹介される。

 実際にどんな仕組みかといえば、つい最近あった二〇二〇年の原油価格の暴落がその好例だ。新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり、飛行機が欠航し、人々がステイホームを強いられると、原油価格はみるみる落ち込み、一時は史上初めてゼロを下回る取引となった。そこへトレーダーが介入し、石油を底値で買ったあと、需要が回復するまで保管したのである。なかにはマイナス価格で買い入れ、生産者がお金を払って石油を手放すような事態も起こった。

時代が変われども持ち続ける影響力

 ただ、コモディティー商社にも時代の波は忍び寄る。それまであらゆる抜け穴を利用し、時には賄賂など違法な支払いもいとわなかった中で、国際的な規制が次第に厳しくなっていく。

 さらに、何十年もの間、圧倒的な情報の優位性を持っていたが、1980年代以降はニュースやデータをほぼリアルタイムで発表・配信できる新技術が登場した。ブルームバーグのように世界中のどこのトレーディングルームでも情報を見られるようになった結果、コモディティー商社の情報面での優位性は減衰し、インターネットの普及がそれに拍車をかけていく。

 グローバル化の恩恵を受けてコモディティー商社は発展してきたものの、ドナルド・トランプのような反自由貿易論者の登場や、国際社会の分断化の進展、消費者のフェアトレード意識の高まりなどは逆風になっている。気候変動対策に反するような資源を扱っていることへの反発や、もうけすぎに対する強烈な批判もある。

 だが著者は、コモディティー商社が落日に向けて遠ざかっていくことなど決してなく、逆にこれまで同様に世界経済にとって不可欠な存在であり続けると見る。終章に示された2020年のダイナミックな動きがそれを如実に物語る。

 時代を問わず、天然資源の需要は存在し、売り買いするビジネスも今後変わらずに残るだろう。そうした中でコモディティー商社はどんな動きを見せるのか。本書でも繰り返し指摘されるように、もはや日陰の存在などではなくなっている中で、さまざまな国の思惑や巨額のマネーを飲み込んで世界経済を動かす巨大プレーヤーの動向に今後も目が離せそうにない。

 
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