菅義偉前首相が宣言した2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、気候変動を考慮する企業や組織が増える一方で、「水リスク」についてはあまり関係ないとの考えがまだ大半かもしれない。
しかし、水循環は気候システムの一部であり、気候変動のほとんどは「水」を通じて人間社会に悪影響をもたらす。洪水や渇水の頻度増大のみならず、緩和策のためのバイオ燃料作物の栽培増大は水と土地利用を通じて食料生産に負の影響を及ぼすと憂慮される一方で、水温も上昇し、冷却水を河川や湖沼からの取水に頼っている大陸の火力発電所や原子力発電所の効率低下や操業停止のリスクもある。
昨今では、主要20カ国・地域(G20)の要請を受け、金融安定理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が求める気候変動関連リスクおよび機会に関するガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標を各企業が適切に確立し実施することが求められている。すなわち、各企業にとって「気候変動に伴う水リスク変化の把握」は必須であり、世界的にその重要性は増している。
本稿では世界経済フォーラムが「人間の健康や経済活動に有害な影響を及ぼすほどの、利用可能な水資源の量と質の著しい低下」と定義する水危機をもたらす水リスクに焦点を当てる。
有史以来の整備で
水リスクを軽減してきた日本
日本は水が豊かな国だから水が足りなくなるリスクや情報開示にはあまり関係ない、と思う方が多いかもしれないが、それは大きな間違いである。
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