2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2021年7月1日

中国の天津にある工場で精錬されたレアアースメタル(写真は2013年)(THE NEW YORK TIMES/REDUX/AFLO)

 今年2月、就任早々ジョー・バイデン米大統領は、半導体、高容量電池、医薬品、そして「レアアース(希土類)」を含む重要鉱物のサプライチェーンの見直しを行う大統領令に署名した。レアアースは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジムなど17元素の総称で、ランタンからプロメチウムを「軽希土」、サマリウムからジスプロシウムを「中希土」、ホルミウムからルテチウムを「重希土」と呼ぶ。

 世界のレアアース生産量は約24万㌧(2020年)。増加傾向にあるとはいえ、数億、数千万㌧といった規模の鉄や銅に比べると、その規模は非常に小さい。それでもこれだけ注目されるのは、さまざまなハイテク機器に使用されるからだ。特に昨今、世界の自動車メーカーが電気自動車(EV)シフトを進めるなかで、駆動用モーターに使用される磁石の材料となるネオジム、ジスプロシウムの需要が増加している。

 世界では今、このレアアースを巡り熾烈な獲得競争が行われており、資源貧国・日本の生命線を脅かすまでになっている。

 記憶に新しいのが、10年に尖閣諸島付近において、中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりし、中国人船長を逮捕したことに対して中国政府がレアアースの禁輸措置をとった「レアアースショック」だ。この時は価格が上昇するなど、大混乱となった。その後、日米欧で世界貿易機関(WTO)に提訴し、中国が敗訴したが、これを契機に日本でも中国を介さないレアアースのサプライチェーン構築を進めた。11年から豪州のマウントウエルドというレアアース鉱山を持つ豪ライナス社に対して、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が出資することで、年間使用量の3割を長期的に確保することに成功した。

 また、レアアース鉱石を中間製品(精錬品)に加工する分離精製・電解還元工程も豪ライナス社がマレーシアに所有する工場や、ベトナム、フランスの中間加工業者を介することによって中国一極集中の是正がなされた。精錬品輸入に占める中国の割合は、62%(19年)まで下がった。では、この比率をもっと下げていくべきかと言えば、そう単純なものではない。

 資源エネルギー庁鉱物資源課・小林和昭課長は「いざというときのリスクヘッジは必要だが、過剰に反応する必要はない。そもそも、レアアースの市場自体、非常に小さいものであり、中国以外だけですべてをカバーする市場を作ることは相当難しい」と話す。中国のレアアース資源の賦存量が多いことはもちろん、まだ中間加工設備が中国に多く存在することもあり、レアアースのサプライチェーンから全く中国を外すことは非現実的ということだ。

(出所)米地質調査所(USGS) 写真を拡大

一貫生産を目指す米国
中国も実は輸入国

「レアアースショック」を受けて、米モリコープ社は、カリフォルニア州にあるレアアース鉱山マウンテン・パスでの生産を拡大した。しかし、その後数年でレアアース価格は下落し、米モリコープ社は15年に米連邦破産法第11章(チャプター11)を申請して破産した。マウンテン・パスは、00年代初頭に生産を停止した際も、中国との価格競争に敗れており、中国はダンピングをすることでライバルを蹴落としてきたとする指摘もある。

 こうした経緯があるなかで、米国でもレアアース鉱石の生産から加工まで一貫したサプライチェーンを構築するべく政府をあげて取り組みを加速させている。マウンテン・パス鉱山を引き継いだ米MPマテリアルズ社が昨年上場し、米国防総省からの支援も受けている。マウンテン・パスではこれまで生産した鉱石を中国に運んで加工品を輸入してきたが、今後は自前で加工設備を設けるものと見られる。 

 また、今年1月には国防総省と豪ライナス社から、テキサス州において軽希土分類施設の建設が発表されたほか、米国で生産されたレアアース鉱石をカナダのネオパフォーマンスマテリアルズ社が、自社がエストニアに持つ工場で分離・精製する契約が締結された。

 トランプ前大統領が国防生産法によって米国内でのレアアース生産の強化を命じたのに続いて、バイデン政権においても、引き続きレアアースのサプライチェーンを強化することが進められている。

 それでは中国の動きはどうか。もともと乱立していたレアアース関連企業の整理集約に向けて、レアアース生産のライセンスを「六大集団」(中国北方稀土集団高科技、中国南方稀土集団、中国アルミ業公司、厦門タングステン、広東稀土、五鉱稀土)に再編させた。

 こうした統制を強化した結果、中国でのレアアース鉱石の採掘が減り、ミャンマーなどから鉱石を輸入せざるを得ないという状況になっている。

 さらにミャンマー国軍によるクーデターが起きたことによって「レアアース違法採掘が急増 ミャンマーで中国企業」(5月17日付シンガポール共同)と、国軍が資金確保のために中国企業に違法採掘を許可している可能性があるという。


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