チャイナ・ウォッチャーの視点

2021年9月3日

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及川淳子 (おいかわ・じゅんこ)

中央大学文学部准教授

日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了、博士(総合社会文化)。外務省在外公館専門調査員(在中国日本大使館)等を経て、現職。専門は、現代中国社会、政治社会思想、言論空間。著書に、『六四と一九八九』(共著、白水社、2019年)ほか。

 今年の夏、中国では内陸の河南省、湖北省、四川省などで豪雨による大規模な洪水が相次いだ。

 7月下旬、「千年に一度」と言われるほどの記録的な豪雨が続いた河南省鄭州市では、地下鉄車両への浸水や幹線道路の冠水によって甚大な被害が生じた。7月末時点で死者99人と発表していた河南省政府は、8月2日には死者302人、行方不明者50人と発表した。

 被害の深刻さが明らかになるにつれて、中国のインターネットでは批判や疑問の声が多く見られた。警戒や避難指示などの情報が不十分だったのではないかという指摘や、犠牲者数はもっと多いのではないかという不信感だ。

(ロイター/アフロ)

 豪雨被害から約1カ月後の8月20日、中国国営新華通訊社の報道によれば、中国政府は水利、気象、地質、交通、法律など各分野の専門家による国務院調査チームを編成し、被害状況を全面的に調査する方針を明らかにした。鄭州市当局の連絡先を公開し、市民からの情報提供も呼びかけている(新華通訊社、2021年8月20日)。

 中国政府の対応からは、豪雨だけでなく、世論の動向に対する危機感も垣間見ることができる。SNSで情報が拡散される現在、当局がインターネット空間を厳格に管理しているとはいえ、真相究明を求める市民の声、とりわけ政府に対する不満や不信感は瞬時に伝播する。甚大な自然災害に、さらに人災が重なれば、地元政府への批判だけでなく、中国共産党による統治の正統性を揺るがすことにもなりかねない。

長江三峡ダムで見る中国の情報公開

 豪雨と洪水のニュースを目にして筆者が懸念したのは、長江三峡ダムの水位だ。世界最大規模を誇る三峡ダムは、洪水対策、発電、運輸などを目的とし、中国の発展を象徴している。総貯水容量は393億立法メートルで黒部ダムの約200個分に相当し、ダム湖の湖水面積1084平方キロメートルは琵琶湖の約1.6倍にも及ぶ巨大ダムだ。

 降水量が増加する夏は、ダム決壊のリスクをめぐる情報がインターネットや海外メディアで盛んに伝えられる。近年は、Google MapやGoogle Earthの画像で三峡ダムの堤頂の歪みが確認されたことが話題になった。

 歪みについては、衛星写真のデータを取り込む際に生じたもので、画像はすでに修正されたという情報がある。また、ダム本体の重さで貯水の圧力を支える構造の重力式コンクリートダムは、一般的に年間数ミリ単位で可動するという指摘もある。三峡ダムの安全性についてはダム工学の専門家に議論を委ねるとして、ここでは水位を例にして情報公開のあり方について注目したい。

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