マイクロソフトは水使用量を減らす活動として、敷地や建物に雨水を集めるシステムを装備した。排水として流していた雨を使うことで、従来の地下水使用量を減らす。また、水をリサイクルしたり、冷却水のかわりに外気を使用し始めた。水供給量を増やす活動としては、湿地の保全やアスファルトなどの水を浸透しない表面を除去するプロジェクトに投資を行う。
今後、多くの企業が水循環システムを導入するだろう。実際、TSMCは製造過程で使用する水を工場内で少なくとも3.5回再利用しており、20年には使用した水の約87%に相当する約1億7300万トンを再利用した。
目的は排水を再利用し、高騰する水に関するコストと水使用量を削減することにある。工場内で極限まで水を繰り返し利用すれば、水環境への影響を最小限に抑えられるうえ、地域の水不足の解消にも貢献できると考えられている。これが世界標準となり、日本企業でも導入する例が増えてくるだろうが、水環境は地域によって千差万別。地域に合ったやり方を選択すべきだ。
TSMCが進出した熊本では
20年前から涵養事業を実施
国内に目を転じると、前述のTSMCが現在、熊本県で工場建設を行っている。進出先に熊本が選ばれた理由は、関連企業の集積、交通アクセスのよさはもちろんだが、半導体生産に欠かせない地下水が豊富なことにある。熊本県の生活用水の8割が地下水で、特に熊本地域の水道はほとんど地下水に依存している。
メキシコのなぞなぞに、「土の中に家があり、地中に王国がある。天にも登るが、再び帰ってくるものはなにか」というものがある。答えは「水」で「地中の王国」とは地下の帯水層を指す。
この巨大な貯蔵庫に蓄えられる水は、地表にある水の100倍。雨水が地中にしみ込んで蓄えられるが、それを上回る量を汲み上げたら、地中の王国は空っぽになり、枯渇、塩害、地盤沈下、砂漠化などを引き起こす。
では、半導体工場が水を大量に汲み上げることで地下水が枯渇する懸念はないのか。
熊本県には「地下水保全条例」(01年改正)があり、地下水を大口取水する事業者に、知事の許可を得るよう制約を課し、地下水は水循環の一部であり、県民の生活、地域経済の共通の基盤である公共水との認識に立っている。
改正のきっかけは地下水の減少である。08年の地下水採取量は1億8000万トンと17年前の75%に減少していたにもかかわらず、地下水位は低下していたのだ。10年に熊本県が地下水位観測井戸を測定したところ、1989年に比べ、14カ所中12カ所の井戸で水位が4.5メートル下がっていた。原因は水田が宅地などに変わり涵養量が減ったことだった。
そこで熊本では企業が涵養事業を行うようになった。ソニーの半導体工場は2003年度から地元農家や環境NPO、農業団体と協力し事業を開始。協力農家を探し、稲作を行っていない時期に川から田んぼに水を引き、その費用を負担した。そのほか富士フイルム、サントリー、コカ・コーラなどが田んぼの水張りを支援している。海外で「ウオーター・ポジティブ」と言われているものを日本では20年前からやっていたことになる。
水は石油などと違い、使い切ったら終わりではない。「再び帰ってくるもの」だ。地下水は上流の森林の保全、水田や湿地の保全によって涵養できる。地域とのコミュニケーションを大切に、地下水の流動、使用量、涵養量についての情報共有を図り、保全しながら活用していくことが、地域および企業の持続性につながる。企業にとって「水リスク」の管理は、自社の利益を確保するためにも自社がかかわる地域の環境保全・改善のためにも、ますます重要なテーマになることは間違いないが、そのやり方は地域で決めるべきだ。