日本の大学進学を目指す中国の若者が増えている。日本学生支援機構によると、2022年の全外国人留学生(約23万1000人)のうち、半数近く(約10万3800人)は中国人で、16年以降、右肩上がりで増えている。米中対立やコロナ禍などの影響もあるが、中国人留学生にとって、日本は距離的に近く、学費が安く、安心安全で、魅力的な留学先だからだ。
そうした需要に応えるため、10年以上前から増えているのが中国人向け大学受験予備校だ。多くは在日中国人による経営だが、中でも、最近増えているのが美術大学を目指す学生のための専門コースだ。筆者は『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)で、その背景を取材している。
中国でなく、日本の美大を目指す
東京・高田馬場駅に降り立つと、他の駅前では見たことのない業種の看板が複数、目に飛び込んでくる。それは在日中国人向け受験予備校の校名が書かれた看板だ。
「行知学園」などの大手をはじめ、新興の予備校の看板もあり、駅周辺にこれらの学校が集中していることがわかる。ほかに、新宿、池袋などにもこうした学校が増えている。
筆者はそのうちの一つ、東京・池袋駅から近い千代田国際語学院を訪ねた。同校は01年に設立。日本語学校の運営のほか、日本の大学受験指導も行っていて、予備校の中では老舗であり、定評がある。
同校によると、08年頃から日本の大学の受験対策を希望する留学生が増え始めた。その期待に応えるため、日本語学校と並行して受験指導を始めたというが、近年、とくに増えているのが美術やアニメなどを学びたいと希望する学生だ。そのため、美術専門コースを設置し、力を入れているという。
なぜ、日本の大学の中でも、とくに美大を目指す中国人留学生が増えたのか。背景にはいくつかの理由がある。