ここ数年、香港のアートシーンが活発だ。2022年は北京の故宮博物院の香港版である「香港故宮文化博物館」が7月にオープンしたほか、「M+」という美術館では、草間彌生の企画展が開催されている。毎年3月にはアジア最大規模のアートフェアが開催されるなど、香港政府はアジアの芸術のハブになることを目指している。日本にとってもビジネスチャンスととれる動きだが、香港国家安全維持法が2020年に成立し、政権を批判するような作品の製作や展示がしにくい環境下になるなど、取り巻く環境は複雑だ。
アートで稼げることを知った香港人
香港は、英国の植民地下でレッセフェール(自由放任主義)だったことから、「お金を稼ぐ街」という位置を持つ。大阪商人ならぬ「香港商人」が存在する。
そんなビジネス嗅覚に優れる香港人が新しいお金の成る木を見つけた。「芸術」である。
香港には昔から広東オペラや交響楽団が存在し、香港アートフェスティバルという大型イベントもあったが、あくまで芸術系が好きな人たちのものでしかなく、「芸術や文化の砂漠」と言われるほどだった。
そんな中、香港経済が発展を続け生活に余裕が出てくると、アートに興味を持つ人が増えた。香港政府は、香港をアジアのアートのハブにすることを目指し、1990年代半ばに「西九龍填海計画」という埋め立て地でのプロジェクトを計画。そこに観光の要素を加味させたのが「西九龍文化区(WKCD)」だ。
総事業費170億香港ドル(約2900億円)と投入し、40ヘクタールもある土地に、広東オペラの劇場、美術館、博物館など20棟の芸術施設を作る計画である。現在も収容人数が異なる3つの劇場から成る「演藝綜合劇場(Lyric Theatre Complex)」など工事を進めている。
WKCDの中核施設の1つが「香港故宮文化博物館」で、22年7月に開業した。これは、北京の故宮が保有している作品を一定期間ローテーションしながら香港で展示する。
この施設建設が発表をされたのは16年で、雨傘運動の2年後。北京が香港人に中国の歴史や文化を理解してもらおうとする狙いがあったのは想像できるだろう。こうした結果、中国政府が21年に発表した第14次5カ年計画では、香港が中国と外国の文化芸術の交流センターとして発展することを支持していくというような文言が入り、WKCDは国家プロジェクトの様相を呈してきた。