2019年の逃亡犯条例改正を巡るデモ以前の香港は、フリーポートであり、世界の金融センターとして世界経済の大きな歯車の役割を果たしてきた。20年6月30日に香港国家安全条例が制定され、ビジネス環境の自由度が減少してしまったことは否めない。それに加え、香港の都市機能を支えてきた香港ドルと米ドルを実質固定しているペッグ制が揺らぐ可能性が取り沙汰されている。
米国が金利を上げていることから香港ドルが売られやすい状況にあり、最近、香港金融管理局(HKMA)は香港ドルを維持するために頻繁に介入している。香港の22年12月時点の外貨準備高は前年同月比で755億米ドル減の4240億米ドルだ。
一部の投資家にはペッグ制の崩壊にポジションを組む動きも現れている。香港ドルを巡る動きが慌ただしくなってきたが、その行方は?
固定相場だけど、金融政策の自由度なし
香港ドルは、1983年に米ドルとほぼ固定した為替レートで交換させる「カレンシーボード制」を採用している。香港上海匯豊銀行(HSBC)、スタンダード・チャータード銀行、中国銀行(香港)の3つの発券銀行が、香港ドル紙幣を発券するたびに、同額の米ドルを香港のHKMAに納めることが義務化されている。
その結果、発券時に米ドルが預託された香港ドルは、政府の米ドル資産によって100%保証され、香港ドルと米ドルの相場は固定されやすくなる。1米ドル=7.75~7.85香港ドルが変動幅で、上限または下限に達するとHKMAが市場介入を行われることになっている。
日本は円安で一喜一憂しているが、香港は実質、固定相場なので、その心配はない。貿易会社で働く友人は「レートが一定なので損益の計算もしやすい。ペッグ制は物流のハブである香港にぴったりの制度だ」と語る。
一方で、ペッグ制を採用しているせいで、香港の政策金利は米国と連動せざるを得ない。米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年、インフレ対策としてどんどん引き上げた政策金利に香港も従わざるを得ない。1=為替相場の安定、2=金融政策の独立性、3=自由な資本移動のうち必ず1つは諦めなければならないという「国際金融のトリレンマ」という言葉があるが、香港は2を諦めた。