2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2023年1月17日

人民元を守るために1国2制度を延長?

 昨年、筆者がある香港の起業家と話していた。その人は「2022年、香港の中国返還25周年を迎えたけど、政治的なものは大きく変わってしまった。香港経済もどう変化するのか。ペッグ制が香港経済の発展のカギだったけど、ウクライナ戦争のような世界経済の不確定要素がこれ以上起きないとは言いきれないし、そもそもペッグ制の維持ってできるのだろうか……」とつぶやいた。

 そんな香港ドルの状況について日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所開発研究センターの久末亮一副主任研究員は「貿易通貨、決済通貨として誕生したのが香港ドル。香港は人やモノを四方八方に結び、中継ぎをしているという特殊な位置にいる。トランポリンのように中心部のまわりをたくさんのばねで支え合っているような感じである。今もペッグ制は機能しているし、現時点で、香港政府も中国政府もペッグ制を変えるつもりはないだろう」と語る。

JETROアジア経済研究所開発研究センターの久末亮一副主任研究員

 「ただし、ペッグ制が抱える問題以上に試されているのは、香港の地位が変わってしまった点だ。トランポリンのばねの一部が切れ始めている。これまでは香港を利用しようとしたマネーが世界中から流入してきたが、国安法の影響などで香港のビジネスを下支えしてきたファンダメンタルズが崩れてきつつある」と付け加えた。

 その原因として米中関係の変化がある。読者の方は「そもそも中国政府は、香港ドルのことなんて気にしていないのではないか?」と思うかもしれないが、実情は異なる。

 人民元は国際通貨ではないので、国際決済通貨として機能している香港ドルを中国自体が必要としているからだ。久末氏は「自国の主権内にある香港がハードカレンシー(外国為替市場で他国通貨と自由な交換が可能な通貨)である香港ドルを使えることは大きなメリット。なので、中国政府は香港ドルをまだ生かしたい。だからこそバックドアとしてHSBCが欲しいので、中国の四大保険会社の1つである中国平安保険集団を筆頭株主にさせた」と指摘している。

 裏を返せば香港ドルの存在価値が中国本土にとってなくなった時にお役御免となる可能性もあるということだ。香港政府自体は、どう思っているのだろうか。久末氏は「香港ドルを維持しないと香港が崩壊するので維持したいでしょうが、1国2制度がなくなりつつある中では中国政府の意向に沿ったことしかできないだろう」と、もはや香港自らが決められるものでもなくなっていると分析した。

 香港人は植民地などの経験から生き抜くためのたくましさが備わっているが、「21世紀初頭までは大丈夫だったが、米中対立などを考慮すると、通用する時代ではなくなりつつある」(久末氏)ともみられる。

 人民元のハードカレンシー化については「中国おいて経済は政治に従属しなければいけない存在。通貨が統治の安定性を損なう存在にはなってはいけない。ハードカレンシーになるには世界に開かれなければいけないが、中国政府が自国通貨を開放するとは思えない。2047年に1国2制度が正式に期限を迎えるが、中国政府はそこまでにハードカレンシー化を目指すか、国内統治と人民元を安定させるためだけに1国2制度を延長するかもしれない」と久末氏は1国2制度からの観点から見通す。


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