2023年12月6日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年6月21日

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中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)『日本の「中国人」社会』(日本経済新聞出版社)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)、『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)などがある。

 第一に、中国国内事情がある。中国では美術系大学が相対的に少なく、入学が非常に困難であるという。

 同学院で働く女性講師は中国の美術系大学を卒業後、来日。同校で日本語を学びつつ、美術の受験指導を受け、有名美大の修士課程に進学、油絵を専攻した。卒業後はアーティストとして活動しながら、母校である同校で後進の指導にも当たっているという。その女性は次のように語る。

 「中国で有名な美大といえば、中央美術学院、中国美術学院、広州美術学院、天津美術学院、魯迅美術学院などで、10校以下しかないのです。そこに、全中国から志望者が殺到するので競争は当然、熾烈になります。

 そのため、どんなにすばらしい美術の才能があっても入学できない人が大勢います。それは日本の比ではありません。知り合いの美術講師は、最も有名な中央美術学院の受験に3回も失敗したといっていました。中国の美大はほぼ国立ですから、美術だけでなく勉強もがんばらなければならず、合格までのハードルは非常に高いのです」

日本のアーティストの知名度も後押し

 コロナ禍前、筆者は中国都市部の小学校の下校時間に校門前に行ったことがあったが、そこには絵画教室の担当者が何人も子どもを迎えにきていたことを思い出した。下校後、子どもたちをそのまま絵画教室に連れていくためだ。

 こうしたことは日常茶飯事で行われており、ここ数年、美術や音楽の英才教育を受ける子どもが非常に増えていることを物語っている。わが子(一人っ子)に、就職に役立つ専攻などより、自分の好きな分野に進んでほしいという親心なども関係しており、経済的な豊かさも後押しとなっている。

 学生の中には、将来はプロになりたいと夢見る人も多いが、前述の中央美術学院は全学生を合わせても5000人弱しかいない。北京大学(全学生数、約7万5000人)、清華大学(同、約5万3000人)といったマンモス校と比較しても学生数は極端に少なく、美大の競争率は非常に高い。そのため、外国、とくに日本の有名美大を目指そうという動きが起きているのだ。

 こうした動きは音楽でも同様であり、日本の音楽大学を目指す中国人学生も増えている。そのため、同校では音楽の講座も設けていると話していた。

 第二に、日本の美術に対する高い関心が挙げられる。SNSなどの影響もあり、近年、中国では日本のアーティストの知名度がうなぎ上りで上がっている。

 美術作家の奈良美智氏の作品は数十億円以上で取引されるほど人気だし、ほかに芸術家の草間彌生氏、村上隆氏、写真家の荒木経惟氏、蜷川実花氏なども高く評価されている。中国で彼らの作品展などが開催されれば、どこも長蛇の列ができるほどだ。前述の美術講師はこう話す。

 「日本の芸術家は中国人にとって憧れであり、夢のような存在で、いつかこうなりたいと思っている人がとても多いと思います。中国には弘一(本名は李叔同、20世紀前半に活躍)という有名な芸術家がいるのですが、彼が東京美術学校(現在の東京藝術大学)で学んだことも、中国ではよく知られています。こうしたことが、中国の若者が日本に行って美術を学びたい動機の一つになっています。

 日本で感心したのは、教授たちは学生への指導だけでなく、自身がアーティスト、クリエーターとして、第一線で活躍している人が多いということでした。将来こういうふうになりたいと憧れる現役の芸術家から、教室で直接指導してもらえることも、日本の美大の層の厚さ、人材の豊富さ、伝統だと思います」


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