アリス・デイヴィース、BBCニュース(ワシントン)
アメリカの主要紙ワシントン・ポストは25日、11月5日の大統領選に向けて、特定の候補者を支持しないと発表した。同紙記事によると、論説室はすでに民主党候補カマラ・ハリス副大統領を支持する社説を用意していたものの、同紙を所有するジェフ・ベゾス氏の指示で掲載が見送られたという。この判断に社内や購読者の一部から批判の声が相次いでいる。
ワシントン・ポストの最高経営責任者(CEO)、ウィリアム・ルイス氏は、大統領選に向けて特定の候補を支持しないという決定は「この新聞のルーツに戻る」ためのものだとして、今後もそのような候補者支持は行わないと述べた。
同紙は1970年代からほとんどの大統領選で、常に民主党の候補者を支持してきた。
同紙スタッフを代表する労組幹部は、経営陣のこの決定を「深く憂慮」すると述べた。長年の読者がすでに次々と、購読を中止しているという。
ワシントン・ポストは自らの記事で、この件について報道。それによると、ことの経緯の説明を受けたものの公に発言することができない消息筋2人の話として、論説室はすでにハリス副大統領を支持する社説を用意していたものの、掲載が見送られた
その決定は、同紙オーナーでアマゾン・コム創業者のジェフ・ベゾス氏によるものという。
ワシントン・ポストのウエブサイトに掲載されたコラムで、ルイスCEOは、「この決定がさまざまに解釈されることは承知している。一人の候補への暗黙の支持、あるいは別の候補への非難、もしくは責任の放棄だと、受け止められることもあるだろう。それは避けがたい」としたうえで、「私たちはそうは思っていない。ポストが常に体現してきた価値観と、私たちが指導者に望むことと、矛盾していないと考える」
CEOはさらに、どの大統領候補に投票するか「読者は自分で決められる」として、今回の決定は読者への信頼のあかしだとも述べた。
これに対して同紙のマーティー・バロン元編集局長は、「臆病」な決定だと非難。「被害を受けるのは民主主義だ」として、「勇敢で知られた組織が臆病な腰抜けになった。憂慮すべき事態だ」と批判した。
同紙労組幹部は、「論説室そのものではなくウィル・ルイスCEOが発表したことから、論説室の仕事に経営陣が介入し邪魔したのではないかと心配している」と述べた。
労組は声明でさらに、「かつての愛読者がすでに購読を中止している。この決定は、我々が読者の信頼を失うのではなく読者の信頼を築いているべき時に、組合員の働きを損なうものだ」とも批判した。
今回の決定を伝える同紙記事には多くのコメントが寄せられ、購読を中止したという意見が相次いでいる。同紙の公式スローガンは「民主主義は暗闇の中で死ぬ」というものだが、「まさにその通りだ。ワシントン・ポストは暗くなった」というコメントもあった。
ワシントン・ポストの決定に先立ち、ロサンゼルス・タイムズも特定の大統領候補を支持しないと決定。同社の決定を受けて、マリエル・ガーザ論説主幹は辞任した。
ガーザ氏は学術誌コロンビア・ジャーナリズム・レビューに対して、「私たちが沈黙することは、決して容認できないと、はっきりさせたいので辞任した」、「危険な時代に、正直者は立ち上がらなくてはならない。私はこうやって立ち上がっている」と話した。
ガーザ氏によると、ロサンゼルス・タイムズもハリス候補を支持表明する予定だったものの、同紙を所有する大富豪パトリック・スン・シオン氏が反対したため、見送られた。
ガーザ氏の辞任を受けてスン・シオン氏はソーシャルメディアで反論。自分は論説室に対して、「個々の候補者がホワイトハウスで実施した個々の政策の長所と短所をすべて事実ベースで分析し、その政策が国にどう影響したか示す」機会を与えたのだと主張した。
同氏によると、論説室は自分の提案を受け入れるよりも「沈黙することを選び」、自分はそれを受け入れたのだという。
対照的に、米紙ニューヨーク・タイムズは9月の時点で、大統領を「愛国的に選ぶ」にはハリス候補を選ぶしかないと、支持を表明している。
一方、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領は25日、大衆紙ニューヨーク・ポストの支持を得た。同紙は、米英などでさまざまなメディアを所有する大富豪ルーパート・マードック氏の企業の傘下。
ニューヨーク・ポストは、「今の英雄ドナルド・トランプが大統領に返り咲く、それを迎える用意がアメリカにはできている」と社説で書いた。
(英語記事 Backlash after Washington Post declines to endorse presidential candidate)