2024年10月6日(日)

孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

2024年9月27日

 最も孤独を感じている世代は高齢者ではなく、20~29歳である──。こう聞くと、「健康で、将来に希望がある若者がなぜ?」と首を傾げる読者も多いだろう。だが、総務省が毎年実施している「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」では最も孤独感が強いのは20代であり、一昨年、昨年ともに孤独感が「常にある」(間接質問)と答えた20代の割合が10%を超えている。若者の孤独感が強い背景には何があるのか。『子ども・若者の居場所と人間形成』(東信社)などの著書があり、教育人間学が専門の駒澤大学総合教育研究部の萩原建次郎教授に聞いた(聞き手/構成・編集部 大城慶吾・友森敏雄)。

(YOSUKE WADA)

〝放課後の世界〟の変容
遊び空間の減少

萩原建次郎(Kenjiro Hagiwara)駒澤大学 総合教育研究部 教授
横浜国立大学教育学部生涯教育課程社会教育コース卒業、立教大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学などを経て現職。教育人間学、社会教育学専攻。子ども・若者支援ネットワーク、地域の子どもの居場所づくり、ユースセンター運営、若者支援施策提言などに携わる。

 子ども時代を〝置き去り〟にしてしまった若者が増えています。彼らは子どもの時にするはずだった原体験をしないまま、そのまま大人になるから、結局、次の世代にも同じことが引き継がれていく。これを取り戻すには本当に大変なことですが、このままでは子どもたちにとってしんどい環境が続くことになり、私はそれを大変危惧しています。

 どうしてこうなってしまったのか。様々な要因が考えられますが、私は、大都市を中心に子どもたちにとっての〝放課後の世界〟が大きく変容し、遊び空間が急激に減少したことに注目しています。

 環境デザイン研究家の仙田満氏の『こどものあそび環境』(鹿島出版会)によれば、横浜市域では、1955年頃から2003年頃までの約50年の間に、子どもの遊び空間が、「自然スペース」で1000分の1、工場跡地や原っぱのような「オープンスペース」が20分の1まで減少しています。

 現代社会では、『ドラえもん』に出てくるような土管が積んである「空き地」を見かけることはありませんし、あったとしても「危ないから遊んではいけない」とついつい注意してしまいがちです。

 遊び場の急速な減少は、高度経済成長期に始まる近代産業化社会を目指す中で発生した問題でもあります。土の道が次第にアスファルトの歩道になり、モータリゼーションが進んだことで車道となり、道は遊んだり、自然を観察したり、子どもたちがコミュニケーションを取ったりする場所ではなくなりました。高度経済成長期を通じて、全国に高速道路網などが整備され、合理性、利便性を最重要課題とすることで、社会がより精緻に、より高度化していくという「再帰的近代化」は、今なお続いているのです。近代化がさらなる近代化を生む社会と言っても過言ではありません。

 遊び場の状況を把握するため、私はかつて東京都内の約400カ所の公園の利用状況と、1500人の子どもたちにアンケートを行ったことがあります。その結果、地域によって明確な違いがあることが分かりました。 

 昔からの中小企業の工場などが近くにある地域の公園では、その地域の大人たちが見守る中で、子どもたちが自由に遊んでいました。背景には、「自分が子どもの頃そうだったんだから、今度は自分たちが見守る番」という大人たちの意識があったのです。


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