2024年12月4日(水)

孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

2024年9月25日

 とある都内在住の大企業勤務の男性(45歳)を取材した時のこと。彼は子どもの教育方針の違いなどで数年前から妻と衝突を繰り返しており、取材当時は2カ月間も家出していた。会社はリモートワークで出社は月に1日程度、寝泊まりしていたのはウィークリーマンションである。

(WESTEND61/GETTY IMAGES)

 いろいろ話を聞いていると、どうやら彼は、妻に対して気に入らないことがあると家具を蹴るなどの、いわゆる「モラハラ行為」をしていたようだった。しかし彼本人は「妻に話を聞いてもらえない」と、ひたすら家庭内での孤立を嘆いていた。妻の言い分を取材していないので、ここで彼の家庭の状況を論じることは難しい。

 ただ、とにかく彼が孤独を深めていることはわかった。彼には悩みを打ち明ける友人も同僚もいないのである(見ず知らずの筆者に内情を打ち明けたのは、利害関係がないからだろう)。ちなみにこの男性は、どこにでもいるごく普通の優しそうな「パパ」なのである。

 この例は極端だが、現代の中高年男性の多くは、どこか同じような「孤独」を抱えている。

 長時間労働をしてきた中高年男性は、仕事以外の場で新しい友人を作ることが難しい。加えて仕事に明け暮れているため、家庭内でもいつの間にか孤立している。「家族に本音は話せない、弱みは見せられない」という男性の声はよく聞く。

 彼らを見ていると、「自己責任」「人に迷惑をかけてはいけない」という思い込みが強く、完璧主義の人が多いように思う。

 おそらく、古典的な「男らしさ」や「べき論」に縛られ、いつの間にか人を寄せ付けない孤高の存在になってしまうのだろう。

なぜおじさんは
空き缶を拾うのか

 こんな中高年男性もいた。

 空き缶拾いで生計を立てている独身男性(65歳)。もともと彼はベビーカーを製造する工場を経営していたが、その商売を畳んでからは物流倉庫の仕分け作業の日雇いで生活していた。年金は納めておらず、無年金状態だった。

 彼はある時、アルミの空き缶をスクラップ工場に持ち込むとお金になることに気付き、「環境保全活動」という名目で、夜中に道端のゴミ箱から空き缶を集めるようになった。空き缶拾いはホームレスの人が行っているのを見かけるが、彼には家はある。

 彼は空き缶集めを「社会貢献だ」と言いつつ、「恥ずかしい仕事」とも漏らしていた。生活保護をすすめようものなら「プライドを傷付けられた」とでも言うように烈火のごとく怒り出すので、行政に繋ぐことも難しい雰囲気だった。

 もちろん、どんな仕事をしようと個人の自由である。ただしこの男性が人を頼る術を持っていたら、夜中に隠れて空き缶を拾わなくても、堂々と「環境保全活動」ができた可能性もあるのではないかとも思う。


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