彼のように「人の世話になりたくない」「自分一人でどうにかしなくては」という人には悲劇が訪れることもある。
2022年11月、神奈川県大磯町で、40年間車いすの妻を一人で介護していた80代の男性が、妻を車いすごと海に突き落とす介護殺人を起こした。この男性は妻の介護を自分の義務と考え、周囲からの援助の申し出を断り、たった一人で背負いこんでいたという。介護殺人の加害者は女性よりも男性が多いことが指摘されている。
こうした家庭内で起こる介護殺人や虐待、モラハラやDV、さらには店員に執拗にクレームを入れるカスハラ(カスタマーハラスメント)などの社会問題は、当事者の根底に孤独があると思う。
とくに中高年男性は組織から切り離された時、孤独の中で懊悩する。それでいて彼らは人に助けを求めることが苦手である。孤独のうちに問題を一人で抱え込み、風船のように怒りや悲しみが膨らんで、ついには破裂してしまうのだ。
孤独には
自覚症状がない
では誰かに助けを求めることが苦手な人は、どうすればいいのだろう。
「自立とは、依存先を増やすこと」
これは東京大学先端科学技術研究センター教授で、自身も脳性まひの障害がある熊谷晋一郎さんの言葉である。熊谷さんはあるインタビューでこう語っている。
「『自立』とは、依存しなくなることだと思われがちです。でも、そうではありません。『依存先を増やしていくこと』こそが、自立なのです。これは障害の有無にかかわらず、すべての人に通じる普遍的なことだと、私は思います」
障害がある人は、周りからの助けがなければ、生きていくことが難しい。助けてもらうことを恥ずかしいと思わず、家族以外にも広く浅く依存できる相手を増やしていくことが、結果的に自立に結びついていくという考え方だ。
この言葉は、「孤独社会」を生きるすべての人に、孤独解決のヒントを与えてくれていると思う。
私たちも「迷惑をかけてはいけない」「プライドが許さない」と一人ですべてを抱え込んでいたら、どこかで行き詰まってしまうだろう。しかも「人生100年時代」だ。平均寿命が60~70歳の頃とは違い、いつかは誰かに依存しなければ生きられない。
しかし、孤独に悩みながらも「人間関係は面倒くさい」と感じる人は多い。
さらにタチが悪いのは、「孤独」はセルフチェックしにくいことだ。「私は孤独です」と堂々と言える人は、実は孤独ではない。本当に孤独な人は、空き缶を拾う男性のように、自分の孤独から目を背けている。
だからこそ私たちは、家族や会社以外の場に、広くて浅い「依存先」を意識して増やしていく必要があるのではないかと思う。