2024年12月4日(水)

孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

2024年9月25日

広くて浅い
「ありがとう」を作る

 その時、「会社の外に友人を作るぞ」と力む必要はない。まずは「おはよう」「ありがとう」だけでも言い合えるコミュニティーを、地味に広げていくことから始めてみてはどうだろう。

 町内会や近所の人、副業、ボランティア、SNSでもいい。自分が入っていけそうな場所を2~3カ所探してみる。するとそこから枝分かれして、さらに次のコミュニティーが広がっていくものだ。また、ボランティアや町内会などの活動を通じて、自分自身が誰かの「依存先」になる経験をしてみることも素晴らしいことだと思う。

 男性のセカンドステージを取材した時に、本業をリタイアした後、コンビニでアルバイトをしている男性(62歳)に出会った。彼によれば、日本のコンビニの客はレジの店員に向かって「ありがとう」と言ってくれる人が多いそうだ。「もう二度と会わないかもしれないのに、ありがとうって言ってくれるのがすごく嬉しい」と彼は語っていた。

 「ありがとう」と言われて嬉しいのは、自分が社会の役に立っていることが実感できるからだろう。コンビニは彼のコミュニティーの一つになっていた。

 つまり、これくらいの世界がいくつかあれば、いいのではないか。〝ゆるい〟関係でいいのである。「ありがとう」と言ったり、言われたりするうちに、個人の孤独が氷解することもある。

 ちなみに新しい場に入っていく時、中高年男性ほど、自分の肩書や経歴などの「看板」を自慢しがちであるが、そこは控えたほうがいいらしい。

 「第二の人生で成功している人は、自分のスキルや肩書を小出しにするのが上手い人」

 これはシニアに仕事を紹介する人材派遣会社の担当者が言っていた言葉である。この担当者いわく、自分の肩書を出したがる人は、すぐに仕事を辞めてしまうことが多いのだという。

 これは、第二の人生の仕事のみならず、地域のコミュニティーなどでも同様に当てはまる。「自分はこれができる」「自分はこんな輝かしい経歴を持っている、どうだ!」ではなく、「自分という存在がこの場でどう役に立てるか」を示していくほうが何かと上手くいくようだ。

 ただ肩書や経歴は、中高年男性の人生そのものだ。そこからいきなり脱皮しろと言われても無理がある。

 だから最初から成功を期待しない方がいい。人間関係でも大いに失敗し、そこから学びを得ていきたいものだ。

 ここまで中高年男性の孤独について述べてきたが、これは女性にも当てはまる。今は女性も会社組織などで長時間労働している。意識して職場以外の場を作っていかないと、いずれは男性と同じように「孤独なおばさん」化する可能性があるので注意していきたい。

 とにかく力まず強がらず、ゆるくやっていくことが、これからのおじさん、おばさんの孤独の処方箋の一つではないだろうか。

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Wedge 2024年10月号より
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

孤独・孤立は誰が対処すべき問題なのか。 内閣府の定義によれば、「孤独」とはひとりぼっちと感じる精神的な状態や寂しい感情を指す主観的な概念であり、「孤立」とは社会とのつながりや助けが少ない状態を指す客観的な概念である。孤独と孤立は密接に関連しており、どちらも心身の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。 政府は2021年、「孤独・孤立対策担当大臣」を新設し、この問題に対する社会全体での支援の必要性を説いている。ただ、当事者やその家族などが置かれた状況は多岐にわたる。感じ方や捉え方も人によって異なり、孤独・孤立の問題に対して、国として対処するには限界がある。 戦後日本は、高度経済成長期から現在に至るまで、「個人の自由」が大きく尊重され、人々は自由を享受する一方、社会的なつながりを捨てることを選択してきた。その副作用として発露した孤独・孤立の問題は、自ら選んだ行為の結果であり、当事者の責任で解決すべき問題であると考える人もいるかもしれない。 だが、取材を通じて小誌取材班が感じたことは、当事者だけの責任と決めつけてはならないということだ――

 


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