Washington Files

2020年2月10日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 トランプ米大統領はウクライナ疑惑をめぐる弾劾裁判で5日、与党共和党が多数を占める上院評決により「無罪」放免となった。だがこの先、「史上最も腐敗した大統領」(ニューヨーク・タイムズ紙)の汚名返上へとつながる兆しは、あまり見当たらない。

 ニューヨーク・タイムズ紙は「無罪評決」に先立つ去る1月31日、国民の多くが求めてきた、弾劾裁判における重要証人喚問を共和党が却下したまま評決を急いだことについて、これを糾弾する社説を掲載、この中で「上院が無罪判定を下したとしても、トランプ氏の身の潔白を証明することにはならないし、そうすべきではない。彼は史上、最も腐敗した大統領『the most corrupt president in modern times』であり、国民はそのことをいつまでも記憶にとどめることになるだろう」と厳しく断罪した。

 アメリカの良識を代表する有力紙が、社説で現職大統領に対し、このような一刀両断のレッテルを貼るのは、異例のことと言える。

ワシントンのトランプインターナショナルホテル(bpperry/gettyimages)

 しかし、トランプ氏に「史上最も腐敗した大統領」の烙印を押したのは、同紙が初めてではない。

 ミズーリ大学のビル・ブラック助教授(「経済と法」専攻)は昨年11月、政治ウェブサイト「truthdig」とのインタビューで、トランプ大統領について「一連の問題の核心は、トランプ腐敗にある。彼は米国史上、最も腐敗した大統領であり、過去のどの大統領とも比較にならない腐敗支持派の大統領だ」と述べている。

 ブラック助教授はその根拠として①トランプ大統領は就任当初から、外国政府関係者、企業などによる贈収賄行為を禁じた「外国腐敗行為法=Foreign Corrupt Practices Act」の骨抜き化に取り組んできた②さらに政府による腐敗行為を告発する「腐敗告発法=False Claims Act」についても、バー司法長官が撤廃に向けて動き出している③大統領個人弁護士のジュリアーニ氏なども、ロシアの組織犯罪関係者と結託し私利私欲のために権力を濫用しているとして、ニューヨーク連邦地検に告発されている―などの点を挙げている。

 エリザベス・ウォーレン民主党大統領候補も昨年末、遊説先のニューヨーク集会で「トランプは全身これ腐敗だ=Donald Trump is corruption in the flesh。彼は大統領就任式では『国民のために尽くす』と宣誓しておきながら、実際は彼自身と腐敗した取り巻きたちのためだけに仕事をしているに過ぎない」とこきおろした。

 また、全米最大の大衆紙USA Today も昨年12月30日、政府不正の監視組織=Citizens for Responsibility and Ethics専務理事を務めるノア・ブックバインダー元連邦検察官による「寄稿社説」を掲載、この中でトランプ大統領のウクライナ疑惑に関連する権力乱用、司法妨害、憲法蹂躙行為などに触れ「2019年は米国史上最も腐敗した1年となった」と断じた。

 ではここで、トランプ大統領同様、とくに「腐敗」が目立ったとされる過去の大統領のケースを振り返ってみることにする。

 米国政治史の研究家として知られるAdam I.P. Smith英オックスフォード大学教授は、以下の5人を「史上最も悪名高き米国大統領=the 5 most notorious presidents in history」として列挙、その理由を説明している:(順不同)

①リチャード・ニクソン(1969-74)(共和党)

「1972年大統領選の最中、ウォーターゲート・ビル内の民主党全国選対本部侵入事件に関与し、発覚後、これを隠蔽したのみか、南部諸州において黒人に対する白人の恐怖を駆り立てる“南部戦略”を推し進め、民主党による市民権運動から有権者を遊離させようとした」

②ジェームズ・ブキャナン(1857-61)(民主党)

 「奴隷解放を支持するペンシルバニア出身の政治家として『国論統一』をスローガンに掲げ大統領選に出馬しながら、当選後は、奴隷を所有する南部農園主たちの権利を徹底して保護する一連の政策を打ち出した。さらに奴隷制廃止を訴える北部諸州の民主党支持者たちに背を向け、南部民主党員たちをそそのかし、結果的に南部7州を『アメリカ連合国』として合衆国から切り離す結果をもたらした」

③アンドリュー・ジャクソン(1829-37)(民主党)

 「大統領就任当初から傍若無人な振る舞いはワシントン政界に恐怖感を募らせ、憲法が規定する三権分立を有名無実化し、常軌を逸脱した権力乱用と法律無視の行動が目立った。連邦議会が承認した運河、道路新設の予算に対しては次々に拒否権を行使して凍結させ、国営銀行による通貨流通にも反対を唱え続けた結果、大統領職退任時には国全体が未曽有の大不況に陥った」

④ウォーレン・ハーディング(1921-23)(共和党)

 「国の運営にほとんど興味がなく、取り巻きはオハイオ州の郷里の旧友たちで固め、時間さえあればポーカー遊びか浮気に熱中する体たらくだった。政府の要職に就いた側近たちも各方面からの賄賂で私服を肥やすなど、その腐敗ぶりは連邦議員やジャーナリストたちを驚かせるほどだった。ホワイトハウスの住人としては場違いな存在だった」

⑤アンドリュー・ジョンソン(1865-69)(共和党)

 「就任から退任時まで“災害=disaster”と呼ぶにふさわしい大統領だった。リンカーン大統領暗殺にともない副大統領から昇任となったが、単に南部代表の政治家としてではなく、合衆国全体の最高指導者として任に当たるべきところ、奴隷解放に反対する南部政治家たちの代弁者に終始した。南北戦争で解放された奴隷たちへの市民権付与や自営農地配分にも反対し続けてきた。共和党議会が承認した閣僚人事にも異議を唱え、戦後の国家再建事業にも立ちはだかるなどしたことから、下院本会議で弾劾されるという史上最初の大統領となった」

 では、トランプ大統領の場合はどうなのか。これら過去の大統領の行状にさらに輪をかけ「最悪」とされる彼の過去の“負の実績”にも改めて焦点を当ててみる必要がある。

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