Washington Files

2020年2月25日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 米大統領選民主党候補争いで急進左派のバーニー・サンダース氏(78)が第3戦のネバダ州党員集会でも大勝した結果、最終的に党候補を決める7月の党大会は、穏健中道派との間で分裂状態となる懸念が一層高まってきた。

 サンダース氏は22日、ネバダ州党員集会でジョー・バイデン元副大統領(77)ら2位以下に大差をつけ、勝利宣言した。これで1位タイの初戦アイオワ州党員集会、第2戦ニューハンプシャー州予備選に続き、事実上の3連勝となった。さらに29日に行われるサウスカロライナ州予備選でも、これまで圧倒的に有利とみられたバイデン候補に肉薄しており、その勢いは止まらなくなりつつある。

ネバダ州でサンダース氏への支持を呼び掛ける男性。民主党全体にとってサンダース氏の勝利は晴れなのか、それとも雨なのか……(REUTERS/AFLO)

 このあと、候補者指名レース前半の最大の山場、カリフォルニア、テキサスなど14州で一斉に行われる“スーパー・チューズデー”(3月3日)でも、さらに後続候補との差を広げる公算が大きい。

 ただ、有力誌アトランティックの最新分析によると、かりにサンダース氏がこのまま首位を維持し続けたとしても、バイデン氏のほか、ピート・ブティジェッジ(38)、エリザベス・ウォーレン(70)、さらにレースに途中参加するマイク・ブルームバーグ氏(77)ら、ある程度の代議員数を獲得するとみられる各候補のうち、誰が7月党大会までに戦線離脱するかかどうか、まったく先行き不透明だ。

 最悪の場合、全米各州の代議員総勢3979人が一同に会する党大会で第1回投票が行われ、サンダース氏が「相対多数plurality」を得たとしても、党規約が定める「過半数majority」獲得には及ばず、最終確定は他の候補を交えた第2回投票以降になるとみられる。

 第1回投票後、第2回投票が行われるまでに、各州の地方ボス、市町村長らで構成される有力者集団“super delegates”も加わった“取引集会”(brokered convention”がその場で繰り広げられることになるが、党首脳部が仲介し各候補者間で「過半数」が取れる候補を一人に絞り込むのに調整が手間取り、大会当日深夜から翌日にまでもつれ込む可能性も否定できない。大混乱は必至だ。

 ここで、民主党大統領候補を最終的に決めるのに話題となった、過去いくつかの党大会の例を見てみる。

 まず、1988年大統領選の民主党候補選びは、マイク・デュカキス元マサチューセッツ州知事と有力黒人指導者ジェシー・ジャクソン師の間で争われ、双方とも各州予備選を通じ代議員数で過半数が得られないまま、ジョージア州アトランタでの党大会に臨んだ。筆者も当時、取材現場にいたが、会場内ではデュカキス優勢が伝えられる中で、マイノリティ系のみならず、白人層にも幅広い支持を広げるジャクソン陣営も、各州代議員たちの集まる各ブースを何度も回り、最後まで支援を熱烈に訴える場面も目立った。

 しかし結局、党首脳部による代議員間の調整作業が功を奏し、大きな混乱はなく第1回投票でデュカキス候補が過半数を獲得、同候補党指名が確定した。ただ、同年11月の大統領選本選では、ジョージ・H.W.ブッシュ共和党候補に大敗した。

 続く1992年大統領選の民主党大会(ニューヨーク市)も取材したが、この時はビル・クリントン元アーカンソー州知事とジェリー・ブラウン元カリフォルニア州知事間で争われた。それまで2位につけていたブラウン陣営が各州代議員相手に巻き返しを図ったが、党大会第1回投票でクリントン氏が大差で指名を獲得した。同年本選では、クリントン氏が再選狙ったブッシュ氏を破り、初当選した。

 しかし、1952年の最終候補者選びだけは異例だった。当時の記録によると、予備選段階ではアドライ・スティーブンソン元イリノイ州知事ら4人が乱立状態のまま、党大会での決着となったが、代議員による第1回、さらに第2回投票でもいずれの候補も過半数に達せず、結局3回目でようやく、スティーブンソン候補が指名獲得という混迷ぶりだった。しかし、本選では、党内のしこりを引きずったまま、共和党候補だったドワイト・アイゼンハワー将軍の前に敗退の憂き目にあった。

 今回、民主党首脳部が最も恐れるのは、この“1952年シナリオ”の再現にほかならない。

 それは、以下のような理由による:

  1. これまで指名獲得レースを通じ、同党左派はサンダース、ウォーレン両氏が主要候補として注目されてきたが、その後次第にサンダース氏の存在が際立つ一方、ウォーレン候補の途中断念の可能性が高まりつつある。その結果、ウォーレン派がサンダース支持に回り、同氏がさらに勢いづく。
  2. これに対し、中道派はバイデン、ブティジェッジそしてブルンバーグの3候補がレースに残ったまま、党大会に臨み、勢力は分散される。
  3. サンダース支持層の一つの特徴として、大学生など若い世代、高卒以下の白人労働者、リベラル層などを中心とした熱狂的ファンが多い点が挙げられており、党大会においても、「挙党一致体制」をめざす党本部の説得に応じる可能性は少ない。
  4. その結果、党大会はサンダース氏が巻き起こす“革命旋風”の中で、党員、代議員らによる「資本主義か社会主義か」といった極端なイデオロギー論争の場と化す恐れさえもある。

 これは、再選目指すトランプ陣営から見れば、願ってもない展開だ。それだけに民主党主流派の最大関心事は当然のことながら、どの候補が最もトランプ氏に勝てる可能性があるか、にある。

 数カ月前までの各種世論調査によると、民主党候補対トランプ大統領の対決となった場合、バイデン、ブティジェッジら中道派民主党候補がわずかながらトランプ氏を支持率で上回った。同時に、民主党有権者を対象とした世論調査で、「社会主義」政策について意見を聞いたところ、7割以上が「反対」と答えており、サンダース氏が標榜する「民主社会主義」へのアレルギーは依然根強いことを示した。

 例えば、CNNテレビが昨年12月、民主党有権者を対象に「誰が最もトランプに勝てると思うか」を聞いたところ、40%が「バイデン前副大統領」と回答、サンダース候補の名を挙げたのはわずか13%にとどまった。それだけ有権者の多くが、民主党候補の中では、急進左派ではなく、バイデン氏のような中道路線を支持していることを示す結果となった。

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